細菌性胃腸炎(食中毒)
腸管出血性大腸菌感染症 Enterohemorrhagic Escherichia coli Infections
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流行時期
例年、7~9月の夏季に発生数が多くなります。
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主な症状
激しい腹痛と頻回の水様便で発症し、吐き気、嘔吐、発熱を伴う場合もあります。重症例では、`all blood and no stool(訳:全て血液で便がない)’と言い表される著しい血便となることもあります。また、発症から数日後に、患者の約1割は、腎障害による溶血性尿毒症症候群(HUS)や意識障害・昏睡などを呈す脳症などの重篤な合併症を続発することもあります。
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原因菌
腸管出血性大腸菌感染症は、O-157などの腸管出血性大腸菌によって引き起こされる感染症で、日本では、1996年に大阪府堺市内の小学校を中心に、世界的にも類を見ない程の集団食中毒が発生したことにより、よく知られるようになりました。大腸菌には、非病原性のものと病原性のものがあり、非病原性のものは、健康なヒトや動物の腸管内の正常細菌叢を構成する重要な菌種です。病原性を持つ大腸菌のうち、ベロ毒素という腸管に強い細胞毒性を示す毒素を産生するものを腸管出血性大腸菌と呼びます。O-157の他にもO-26、O-111などが感染症の原因菌としてよく知られています。
潜伏期間は、3~5日です。 -
好発年齢
小児から高齢者まで幅広い年齢層で発症します。ただし、重症例は、小児や高齢者、また女性に多く見られる傾向があります。
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初診に適した科
内科、胃腸科、消化器科、小児科。注1)
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感染経路
汚染された食品が原因となる「食中毒」による感染経路と、感染者のふん便が原因となる「感染症」の経路があります。
食中毒経路
- 汚染された食品の生食、あるいは不十分な加熱のものを食べた場合
【過去の原因食品】イクラ、牛タタキ、牛生レバー、サラダ、井戸水など - 汚染された調理器具や手指を介して、二次的に汚染された食品を食べた場合
【原因となりやすい調理器具】まな板、包丁、布巾、スポンジなど
感染症経路
- 患者のふん便処理後に、手洗い・手指消毒が不十分なことにより、汚染された手指を介して接触感染する場合
- 汚染された箇所(患者が用便後などに触れたドアノブやテーブルなど)に触れることで、手指が汚染されてしまう間接的な接触感染の場合
- 入浴やプールなどで水を介して感染する場合
- 汚染された食品の生食、あるいは不十分な加熱のものを食べた場合
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予防方法
腸管出血性大腸菌は、感染力が大変強く、少ない菌量でも感染が引き起こされるのが特徴です。
汚染された食品、患者のふん便を介して感染するので、下記の予防方法をしっかりと行いましょう。食中毒対策
- 肉類を生で食べることは控え、よく加熱しましょう(75℃、1分以上)。
- 生肉を扱ったあとは、手洗い・手指消毒をしてから他の食品を扱うようにしましょう。
- 肉と他の食品は調理器具や容器を分けて処理や保存をしましょう。
- 生肉に触れた調理器具は良く洗い、熱湯や次亜塩素酸ナトリウム(0.02%)、消毒用エタノールなどで消毒しましょう。
感染症対策
- 料理の前や排便の後は、きちんと手洗い・手指消毒をしましょう。こどもの排泄後はしっかり手洗い・手指消毒をするように指導し、赤ちゃんのおむつ交換の後も必ず手洗い・手指消毒を行いましょう。
- 患者の便で汚染した衣類、寝具、おむつは、塩素系消毒剤(次亜塩素酸ナトリウム)などで消毒してから洗濯しましょう。
- トイレ内、特に水洗レバーや便座、ドアノブなどは、消毒用エタノールなどでこまめに消毒しましょう。
- 入浴やプールでも感染する可能性があるので、患者は、プールの利用は控え、入浴は最後にするか、できるだけシャワーですませましょう。
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消毒剤に対する
抵抗性腸管出血性大腸菌は、色々な消毒剤に対する抵抗性が弱い細菌です。
消毒用エタノールをはじめ、次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨード、逆性石けん液(ベンザルコニウム塩化物液)など、市販されているほとんどの消毒剤が有効です。
- 注1)
- 医療機関によって診療科目の内容は異なりますので、受診前にご確認ください。
【参考資料】
国立感染症研究所感染症情報センター
病原微生物検出情報(月報):IASR / 感染症発生動向調査週報:IDWR感染症の話、過去10年間との比較グラフ(週報)
このカレンダーは、過去に観察された感染症の流行時期を示したものです。
流行時期は、年によって大きく変わることもあるので、最新の情報にご注意ください。