Vol. 98

糖尿病と感染症

糖尿病の患者は感染症に罹患しやすいことが知られています。すなわち、抵抗力が低下していると言えます。その理由には様々なものがあります。糖尿病によって血液の流れが滞っているので、組織まで血液が十分に到達せず、組織が酸素不足になっています。そのため、白血球の機能が不十分となり、殺菌能が低下し、病原体が増殖しやすい状況となっているのです。また、血液の流れが不充分になっていると、感染症の治療として内服もしくは点滴された抗菌薬も感染組織に届きにくくなっており、治療が適切に実施できないのです。消化管の血流も低下しているので、内服抗菌薬の吸収も低下しています。

皮膚も血液の流れが不充分になっていることから、小さな怪我であっても、修復が不十分となっていて、皮膚に潰瘍ができてしまうことがあります。また、糖尿病では末梢神経に障害がみられることがあり、怪我をしたとしても気づかないまま放置され、治療が遅れてしまうこともあります。その結果、感染症が増悪してしまうのです。自律神経も障害がみられ、排尿するときの膀胱の神経が適正に機能しないので、膀胱内に尿が残ったままとなっています。そのため、残尿に病原体が増殖し、膀胱炎や腎盂腎炎といった尿路感染症になりやすいのです。

糖尿病の患者の口腔内や食道の粘膜では真菌が増殖しやすくなっており、同様のことが外陰膣部についてもいえます。また、足趾の間や爪には水虫ができやすく、その病変部分から細菌が侵入することもあります。更に、足に潰瘍や壊死がみられることがあり、足壊疽まで進行すると足や下肢の切断が必要になることがあります。

糖尿病による神経障害によって、何らかの感染症の症状がみられても、本人は気づかないため、病院受診が遅れます。また、受診したとしても、症状が適切に医師に伝わらないと、診断と治療が遅れてしまうのです。糖尿病患者では症状がオブラートに包まれたように明確ではないので、治療の開始が遅れ、治療の経過の把握も難しくなってしまうのです。各感染症ではそれを引き起こしやすい病原体のパターンがあります。そのため、何らかの感染症があると、医師は原因となる病原体を推測して治療を開始します。しかし、糖尿病では通常と異なる病原体が原因となっていることがあるので、治療が難しい状態でもあるのです。

このようなことから、糖尿病の人は感染症に脆弱であることを十分に認識し、手洗いなどの衛生を向上させ、血糖値を適正にコントロールすることが大切です。