Vol. 82
入院の副作用
外来受診している患者さんから、「少し入院させてほしい」といわれることがあります。家族から、その患者さんを入院させてほしいと依頼されることもあります。外来通院が困難なくらいに状態が悪かったり、毎日の点滴が必要であったり、昼夜の観察が必要であったりすれば、当然のことながら入院が必要になります。しかし、「来週から出張なので、入院して早く治したい」とか、患者が高齢の場合は「家族が面倒を見きれないので1週間ほど入院させてほしい」などの理由で入院を希望されることがあります。また、外来受診したときの状態が悪く、入院して治療したところ、全身状態が改善したので退院をお勧めすると、家族から「高齢者だから、また、悪くなったら困るので、再発しなくなるまで入院させてほしい」「高齢で一人住まいなので、何かあったら心配だから引き続き入院させてほしい」といった依頼を受けることもあります。
ここで、「入院」の副作用を考えてみたいと思います。まず、高齢者は幼児と同様に環境の変化に弱いところがあります。毎日の見慣れた自宅の環境から離れ、今まで慣れ親しんできた家族ではなく、会ったこともない医師や看護師と頻繁に接触するので、莫大な環境の変化を数日で体験することになります。その結果、自宅では全く問題のなかったにも拘わらず、病院ではせん妄状態になることがあるのです。もちろん、せん妄は手術や薬剤など様々なことが原因となりますが、入院するという行為もせん妄を作り出すことがあるのです。
また、入院が数日以上続くと、足腰が弱くなります。入院すると、常にベッドが近くにあります。家族や友人が近くにいないことから、退屈になってしまい、ついつい、日中であるにも拘わらずベッドで横になってしまいます。当然のことながら、歩くことはなくなり、特に高齢者ですと、脚力が一気に弱くなってしまいます。本人がよほど頑張って脚力を維持しないと歩けなくなってしまうのです。
入院すると院内感染に巻き込まれることがあります。大部屋に入院すると、たまたま、隣のベッドに入院した患者があとになって、結核であった、インフルエンザであったということがあります。もちろん、結核やインフルエンザであることが判明していれば大部屋に入院させることはありません。しかし、インフルエンザ検査が陰性であったり、胸部レントゲンで結核が否定的ということで大部屋に入院したところ、あとになって結核やインフルエンザなどが診断されることがあるのです。その結果、それまで同室していた患者さんは病原体に曝露したことになります。病院には様々な耐性菌を持った患者が入院しています。そして、その周囲環境(例えば、手すりやテーブルなど)には耐性菌が付着しています。そのような患者さんや周辺環境に接触すれば耐性菌が伝播してしまうのです。医師や看護師が、耐性菌の患者を診察したあとに、別の患者を診察することによって耐性菌が伝播することもあるのです。
このように入院には「せん妄になる」「体力が落ちる」「院内感染する」といった副作用があるので、「できるだけ入院しない」「入院したら早期に退院する」といった対応がとても大切です。入院することによって入院のメリットを享受したら、入院の副作用を経験する前に病院から脱出しましょう。