Vol. 76
単純ヘルペス
風邪をひいたあと、海水浴などで紫外線を思いっきり浴びたあとなどに、口唇周囲に小さな水疱が多数できることがあります。痛痒く、不愉快な気持ちになってしまいます。これは「単純ヘルペス」という感染症です。「熱の花」などと呼んでいる人もいます。原因は単純ヘルペスウイルスです。このウイルスには1型と2型の2種類があり、口唇ヘルペスは1型によるものです。2型は性器で水疱を作りますが、最近は性器ヘルペスも1型によるものが多くなってきました。
初めてヘルペスウイルスに感染するとき、ウイルスは皮膚の小さな傷もしくは口腔・眼・生殖器の粘膜から体内に侵入します。そして、知覚神経を逆行して神経節(神経細胞が局所的に集合して太くなっているところ)に到達します。このとき、9割の人々で何も症状はみられません。しかし、乳幼児や抵抗力の低下している人では喉が痛くなり、歯肉が腫れ、口唇に多数の水疱ができることがあります。これをヘルペス性歯肉口内炎といいます。発熱やリンパ節の腫脹がみられることもあります。潜伏期は 2~10 日です。それらが治癒しても、ウイルスは神経節のなかに住み込んでしまいます。そして、以降はストレスや感冒などがみられると、ウイルスは活性化して神経を下降して皮膚に水疱を作り出すのです。
性器ヘルペスは性行為によって感染することから性感染症として認識されています。思春期以降の男女にみられることが多いのですが、母親や看護師の手指によって乳幼児に感染することもあります。症状は男性では亀頭や包皮に、女性では陰唇や会陰部に、小さな水疱や潰瘍がみられます。鼠径部のリンパ節が腫れて痛いこともあります。
これらの症状は2~4 週間で自然治癒します。しかし、頻繁に再発することがあり、精神的な苦痛となっています。特に、2型では繰り返して症状がみられる傾向にあります。ときどき、排尿に関する神経根に障害がみられ、排尿困難になることもあります。
アトピー性皮膚炎の患者が単純ヘルペスに感染すると全身に水疱がみられることがあり、これをカポジ水痘様発疹症といいます。これが重症化して死亡することがあるので気を付けなければなりません。単純ヘルペスは放置しても自然に治りますが、症状がひどければ、抗ウイルス薬を内服します。稀に、髄膜炎になることがあります。症状は頭痛、発熱、倦怠感ですが、後遺症を残すことがあるので、入院して抗ウイルス薬による治療を行います。