Vol. 73
咳
風邪を引いたり、インフルエンザに罹患したりすると咳が出ることがあります。感染症のみならず、アレルギーでも咳が出ることがあるし、水や食べ物を誤って気道に吸い込むことによっても咳が出ます。
どうして咳をするのでしょうか?それは、気道に異物や分泌物が入り込んだときに、それを排除しようとする反応なのです。咳のメカニズムは、「①さまざまな筋肉が協力することによって、声門が開き、空気を吸う」「②その結果、肺が拡張する」「③その後、息を吐いているときの呼気のピーク時に声門が閉じ、同時に呼気に関連する筋肉が収縮する」「④その結果、胸の内圧が増加する」「⑤そこで声門が開くと、気道内を800m/時の速度で空気が流れる」「⑥その結果、胸の内圧が急激に低下してコホンという音がでる」というものです。
呼吸器疾患のある人は咳反射が亢進しています。実際、風邪をひいたり、肺炎になると咳が出やすくなります。逆に、脳血管障害や意識障害などがある人では咳反射が低下しています。咳反射が低下している人では肺炎の頻度が増加することが知られています。気道に入り込んだ異物や病原体を除去できないからです。
咳は咳の持続期間によって「急性咳嗽(がいそう)」「遷延性咳嗽」「慢性咳嗽」に分類されます。それらの咳嗽の期間は「3週間以内」「3~8週間」「8週間以上」です。急性咳嗽の原因の多くは風邪などの感染症ですが、アレルギー性鼻炎、心不全、喘息といった感染症以外の原因によって引き起こされることがあります。遷延性咳嗽や慢性咳嗽のように咳の期間が長くなると原因が感染症以外である頻度が増加します。慢性咳嗽の3大病因は咳喘息(風邪の後などで1ヶ月以上夜中から明け方に激しい咳が出たり、寒暖の差や喫煙で咳が出やすくなる病気)、副鼻腔気管支症候群(気管支の慢性炎症に慢性副鼻腔炎を合併した病気)、アトピー咳嗽(気管支拡張薬の効果がない気管の病気)です。これらはいずれも感染症ではありません。
咳があれば咳止めを飲みたくなります。しかし、咳止めを飲むことによって、咳のある人すべてで咳が軽減して、身体が休まるということはありません。特に、高齢者を小児や青年と同様に考えてはいけません。小児や成人では異物や分泌物が気道に入り込んだ場合の咳嗽反射が正常に機能しますが、高齢者では反射が低下していることが多く、そこで咳止めを飲めば、咳の中枢神経がさらに抑制され、咳が抑えられてしまいます。高齢者が咳止めを飲むと、肺炎になったりするので注意が必要です。
また、嚥下障害のある人も咳止めを飲むことは避けましょう。咳の中枢神経は延髄という神経部分に存在し、嚥下に関連する中枢神経の近傍にあります。そのため、嚥下障害のある人が咳止めを飲めば、咳の中枢神経も抑制され、誤嚥性肺炎となってしまうことがあるのです。