Vol. 69
急性中耳炎
乳幼児が風邪をひいたあとに、突然発熱し、耳が痛いと泣き叫んだら、急性中耳炎を疑います。急性中耳炎は5歳までの乳幼児に多くみられ、ピークは1~2歳です。ときどき、風呂水が耳に入ったので中耳炎になったという人がいますが、そのようなことはありません。中耳炎を正しく理解していただくためには、耳の構造を知っていただく必要があるので簡単に解説します。
まず、体表面には耳介(みみたぶ)があります。耳介からは耳道があって鼓膜に到達します。耳穴から鼓膜までの部分を「外耳(がいじ)」といいます。鼓膜の奥には中耳があり、さらにその奥に内耳があります。鼓膜には耳小骨(中耳内に存在する微小な骨)がつながっていて、鼓膜が音によって振動すると、振動は鼓膜から耳小骨を経由して内耳に伝わります。中耳は空洞になっていて、耳管で鼻腔とつながっています。内耳は中耳のさらに奥にある器官であり、蝸牛(聴覚を担当する器官)と前庭(平衡感覚を担当する器官)からできています。
中耳炎は中耳に細菌が侵入して炎症を起こしている状態です。風呂の水が耳に入ったとしても、鼓膜で止められるので、中耳には入り込まず、中耳炎とはなりません。中耳炎は病原体が鼻腔や咽頭から耳管(中耳と鼻腔とを交通する管)を通って中耳に侵入することによって発症します。そのため、鼻腔や咽頭に住み着いている病原体(肺炎球菌やインフルエンザ菌など)が中耳炎を引き起こしているのです。そのため、風邪に続いて急性中耳炎が発生することが多いのです。
症状は発熱、耳の痛み、難聴、耳の閉塞感などです。中耳炎が進行すると鼓膜が穿孔し、耳漏(じろう:外耳道から排泄される分泌液のこと)を認めるようになります。耳漏を生じると中耳の内圧が軽減するので、耳の痛みが軽快します。
それでは治療はどうするのでしょうか?抗菌薬が必要なのでしょうか?実は、乳幼児の急性中耳炎に必ず抗菌薬が必要かというとそうではありません。軽症であれば抗菌薬なしで2~3日様子をみて構いません。中等度以上ならばペニシリンを内服します。もちろん、痛み止めの内服もします。中耳に膿が多く溜まって鼓膜がパンパンに腫れているようでしたら、鼓膜切開をします。鼓膜切開とは鼓膜に小さな穴をあけて膿を排出させます。この処置によって痛みはなくなり、解熱してきます。鼓膜に穴をあけたら、音が聞こえなくなってしまうのではないかと心配する人もいますが、大丈夫です。鼓膜の穴は3~4日もあれば塞がります。