Vol. 55
おたふくかぜ
「おたふくかぜ」はムンプスや流行性耳下腺炎とも呼ばれています。原因病原体はムンプスウイルスです。飛沫感染で伝播します。潜伏期は2~3週間であり、片側あるいは両側の唾液腺の腫脹がみられます。発症してから48時間以内にピークとなります。その他の症状としては、物を飲み込むときの嚥下痛、発熱があります。
「おたふくかぜ」は軽症であることが殆どです。感染しても症状が全くみられない人も多く、感染者の約30~35%で無症状といわれています。通常は1~2週間で症状は改善しますが、髄膜炎を合併することもあるので気をつけなければなりません。その他の合併症には睾丸炎、卵巣炎、難聴、膵炎などがあります。
髄膜炎を合併した場合、その殆どは軽症です。ただ、髄膜炎を合併する割合は感染者の半数以上とも言われているので、その中には神経症状がみられる人もいるため注意を要します。おたふくかぜで有名な合併症は睾丸炎です。これは思春期以降の男性患者の約20~30%でみられます。睾丸炎の症状は急な発熱(39~41度)と厳しい睾丸痛です。おたふくかぜによる睾丸炎になった人の30~50%で睾丸の萎縮がみられますが、不妊症となることは稀です。女性では稀に卵巣炎を合併することもあります。膵炎は、おたふくかぜを発症してから1週間後にみられます。腹痛、吐き気、嘔吐といった症状がありますが、約1週間で改善します。おたふくかぜの感染性期間(他の人にウイルスを感染させることができる期間)は症状がみられる7日前から始まり、発症後5日まで続きます。
おたふくかぜを予防するためにはワクチンが大変有効です。2回の接種が望ましいと言えます。ただ、おたふくかぜワクチンにも副反応があり、接種後2週間で軽度の耳下腺腫脹と微熱がみられることがあります。無菌性髄膜炎を引き起こすことも稀にあります。
おたふくかぜに罹患したことのある人は免疫を獲得できるので、おたふくかぜに再度罹患する心配はありません。時々、何回もおたふくかぜになったという人がいますが、それはコクサッキーウイルス、パラインフルエンザウイルスなどの他のウイルスが原因です。
おたふくかぜを看護・ケアする人はおたふくかぜの既往のある人もしくはワクチンを2回接種した人が望ましいと言えます。もちろん、患者の口から飛び出す飛沫を吸い込まないようにするためにマスクをしてケアすることが大切です。学校保健安全法では、おたふくかぜの患者は唾液腺の腫脹がみられてから5日が経過し、かつ全身状態が良好になるまで出席停止とされています。