Vol. 51

飛沫感染と空気感染

麻疹、水痘、インフルエンザといった感染症から身を守るためには、飛沫感染と空気感染の相違について理解することが大変重要です。ときどき、これらを混同している人がいるからです。飛沫はヒトが咳やくしゃみをしたときに口から飛び出す小さな水滴です。これは最大2メートルしか飛ぶことができません。飛沫感染する病原体に感染した人がいたとしても、その人から2メートル以上の距離を保てば感染しないのです。これにはインフルエンザ、百日咳、ムンプス(おたふくかぜ)などがあります。

飛沫が空気中を飛行しているときに水分が蒸発すると、飛沫核という微小な微粒子となり、空気中を長時間浮遊できます。そこに病原体が付着すると、病原体もまた飛沫核に乗って長時間、空気中を浮遊できます。空気流に乗って、隣の部屋に到達することもできます。これを空気感染といいます。空気感染できる感染症は3つしかありません。麻疹、水痘、結核です。

「クシャミをする」と約40,000個の飛沫が飛び散り、「5分間話す」「咳をする」と3,000個の飛沫核が飛び散るといわれています。しかし、実際には口や鼻から飛び出す飛沫や飛沫核の数については、咳やくしゃみの程度によって様々です。

このような飛沫感染と空気感染の相違ゆえに、感染の予防法も異なったものになります。それは空気の管理です。飛沫感染では病原体が空気中を漂うことはないので、空気の流れについて気にする必要はありません。しかし、空気感染では病原体が飛沫核に乗って浮遊して廊下に漏れ出たりするので、空気の流れは大変気になります。そのため、病院では結核、水痘、麻疹の患者は空気が病室から流出しないような陰圧の病室に入院させています。

病室に入る人々が装着するマスクも異なります。飛沫感染の予防ではサージカルマスク(コンビニなどで購入できる三層構造の通常のマスク)を使用することができますが、空気感染ではそうはいきません。サージカルマスクでは顔面とマスクの間に隙間があるので、そこから空気が漏れ込んでしまうからです。そのため、N95マスクという特殊なマスクを使用します。このマスクはマスクと顔面の皮膚が密接に接触しているので空気がマスクの中に漏れ込まないようになっています。

飛沫感染や空気感染する病源体に感染した患者はどうしたらよいかというと、飛沫感染であっても空気感染であっても、口から飛び出す飛沫や飛沫核の数を減らすために咳エチケットをします。咳エチケットは咳やくしゃみをするときにはティッシュで口と鼻を押さえるか、マスクをします。そして、汚れた手を清潔にするために手洗いをします。空気感染であっても、患者がN95マスクを装着することはありません。N95マスクは飛沫核の吸い込みを防ぐためにデザインされており、飛沫や飛沫核が口や鼻から飛び出すことを防ぐために設計されたものではありません。また、咳などの呼吸器症状のある患者がこのような息苦しいマスクに耐えることは困難なのです。患者はサージカルマスクを装着することになります。