Vol. 48

道路工事と免疫不全

年度末になると、何故か道路工事の頻度が増える感じがします。普段、通勤している道が工事中になったりしていると、車が渋滞するので困ってしまいます。また、街を歩いていると、古い建物を壊している状況に遭遇することがあります。新しい建物を作るためには古いものを撤去しなければならないので、やむを得ないことと思います。これらの共通点は、どちらも土埃が空気中に舞っているということです。そのため、工事現場や建築現場に近づくときには息をこらえるか、ハンカチなどで口や鼻を押さえて埃を吸い込まないようにしなければなりません。

このような道路工事や建築現場が免疫の正常な人の健康を障害することはありません。そのため、単に土埃を避けたい程度の認識しかないと思います。しかし、骨髄移植を受けて数か月以内の人や、抗がん治療を受けている人のように抵抗力が低下している人では大変な問題となることがあるのです。それはアスペルギルスです。

アスペルギルスは真菌です。所謂、カビと思ってください。これは環境の至るところに生息している微生物ですが、特に、土埃などに含まれています。そのため、道路工事や建築現場の周辺には土埃と同時にアスペルギルスも浮遊しているのです。この真菌は抵抗力が正常の人が吸い込んでも何ら問題はありません。抵抗力がアスペルギルスの増殖を抑えるからです。しかし、抵抗力が極端に低下している人が吸い込むと肺炎になってしまうのです。

肺炎と聞くと、一般的な感染症と思われるかもしれません。しかし、アスペルギルスの場合には侵襲性肺アスペルギルス症という合併症をひきおこすことがあります。この感染症は肺のみではなく、全身に病原体が拡散します。そのため、死亡率が極めて高いので、感染しないように予防することが大切です。病院では、骨髄移植のあとには無菌室と呼ばれる病室に患者を入院させます。この病室は室内の空気が陽圧となっていて、廊下の空気が室内に入り込まないように設計されています。アスペルギルスで汚染した空気に出来る限り移植患者が曝露しないように無菌室に入室させているのです。無菌室を退室したとしてもアスペルギルスには曝露しないようにしなければなりません。道路工事や建築現場があったら、そこを回避することが望ましいのです。抵抗力の低下している人がどうしても、そのような場所を通り抜けなければならないのであれば、マスクを装着して、土埃を吸い込まないように努力してください。