Vol. 41

インフルエンザの感染経路

「インフルエンザは飛沫感染します。空気感染はしません」などと言うと、「飛沫感染と空気感染はどう違うのか?」と疑問に思われるのではないでしょうか?病院の院内感染対策では飛沫感染と空気感染を明確に分けて考えています。感染を予防するための対策が大きく異なるからです。

まず、飛沫感染についてお話しします。「飛沫」は咳やくしゃみをしたときに、口や鼻から飛び出す微粒子で最大飛行距離は2メートルです。飛沫に病原体が載って移動し、それが近くにいる人の鼻腔や口に入り込むことによって感染するのが飛沫感染です。インフルエンザは飛沫感染します。百日咳、麻疹、ムンプス(おたふくかぜ)なども飛沫感染です。

飛沫が空気中を飛んでいるうちに、含まれている水分が蒸発して、飛沫核という極めて小さな微粒子となります。飛沫核は大変軽いので長距離の空間を空気流に乗って移動することができます。飛沫核に病原体が載って運ばれると2メートル以上の距離があっても感染します。5メートルでも10メートルでも感染しうるということになります。これを空気感染といいます。病院では、空気感染する感染症に罹患した患者を陰圧室(病室から室外に空気が流れ出ないように空気圧を陰圧に設定した病室)に入院させます。空気感染する感染症は結核、水痘、麻疹の3つだけです。

インフルエンザは飛沫感染する感染症なので、患者から2メートル以上離れていればインフルエンザウイルスには感染しないことになります。ただし、これは換気が良好な場合の話です。換気が悪いと、空気中の飛沫や飛沫核が濃縮してきて、インフルエンザウイルスが空気感染するようになります。従って、学校の教室などでは換気を十分にしなければなりません。教室では多数の生徒が勉強しているので、そのなかにインフルエンザの生徒がいた場合、長時間の無換気は空気感染を引き起こす可能性を高めるからです。

インフルエンザウイルスは環境表面を介しても伝播することがあります。環境表面に付着した状態でも感染力を保っているからです。凸凹表面では8~12時間、平滑表面では24~48時間です。例えば、ドアノブにインフルエンザに罹患した人が触れると、ウイルスを含んだ鼻汁などが付着します。そこに別の人が触れることによって、ウイルスが手指に移動します。その手指で目や鼻の粘膜に触れれば、そこからウイルスは体内にはいってゆくのです。

このようなことから、インフルエンザに感染しないようにするには、「飛沫を吸い込まないように、マスクを装着する」「手指を介する感染を防ぐために手洗いをする」「換気を十分におこなう」ということが大切です。もちろん、インフルエンザウイルスに感染したときに重症化するのを防ぐために「インフルエンザワクチンを接種する」ことも大切です。