Vol. 27
妊婦とインフルエンザワクチン
インフルエンザワクチン接種のシーズンがやってきました。診療所や病院ではインフルエンザワクチンの接種を促しています。インフルエンザに罹患すると発熱、倦怠感、関節痛、食欲不振など辛い症状を数日間も経験します。ベッドで横になっていても、怠くて動けなくなることもあります。そのようなことにならないようにインフルエンザワクチンを接種します。このとき、妊娠しているか妊娠している可能性があると、接種をためらう女性がいます。それは、インフルエンザワクチンを接種すると、その副作用でお腹にいる赤ちゃんに障害が発生するのではないかと恐れているからです。
実は、このような「妊娠しているのでインフルエンザワクチンを接種するのを辞退する」ということは大きく間違った対応なのです。妊娠しているから接種しなくてはいけないのです。その理由は3つあります。
[理由1]妊婦はインフルエンザに罹患すると重症となったり、死亡する可能性が非妊婦に比較して高いということです。妊娠しているため、肺が子宮によって圧迫され、肺活量が減っています。また、妊娠により体の免疫が変化しています。2009年の新型インフルエンザのときには世界中で多数の妊婦が死亡しました。
[理由2]胎児の神経は熱に弱いのです。妊娠の早期に母親が高熱を出すと、無脳児や神経管閉鎖不全という合併症になる危険性が高いことが知られています。妊娠の後期に高熱を出すと、脳性まひや新生児痙攣を引き起こす確率が高くなります。
[理由3]妊婦にインフルエンザワクチンを接種すると、ワクチンによって生み出された抵抗力(「抗体」といいます)が産生され、これが胎盤を通過して、胎児に到達します。すると、生まれた直後の赤ちゃんであっても、インフルエンザに対する抵抗力を持つことができるのです。赤ちゃんは生後6ヶ月までインフルエンザワクチンを接種することはできません。そのため、インフルエンザに対する抵抗力はお母さんからプレゼントしてもらうしかないのです。
このようにインフルエンザワクチンには「母親の生命を守る」「胎児の神経を守る」「新生児の生命を守る」という利点があるので、是非とも妊婦にはワクチンを接種してください。接種時期は妊娠のどのような時期でも可能です。妊娠3ヶ月未満であっても接種して構いません。このような妊娠早期は流産しやすい時期であるので、流産したとしてもインフルエンザワクチンが原因ではありません。そのことを理解していただいてから接種することが大切です。