製品開発者の想い
健栄製薬は、「こんな製品があったらいいな」というアイデアを工夫しながら、さまざまな製品を開発してきました。その中から「手ピカジェル」シリーズと「酸化マグネシウムE便秘薬」に関する開発ストーリーをご紹介します。
- 研究開発部 次長
- 諏訪 雅宣
手ピカジェル編
“べたつかず、サラッとした使用感”
その想いを込めて誕生した「手ピカジェル」
2000年頃までの医療現場では、手指衛生と言えば液体の消毒剤が一般的でした。その頃、欧米では液体ではなくゲル状消毒剤の使用が広がっているとの情報をキャッチし、健栄製薬でも医療機関向けのゲル状消毒剤(後の「エタプラスゲル」)の開発をスタートさせました。
実は、液体で手指衛生を行う場合、1回3mLもの消毒剤を使用するため、多くが手からこぼれ落ちて床を汚してしまったり、乾燥までの時間も1分程度かかっていました。
しかし、ゲル状の消毒剤は手からこぼれ落ちにくくなるため、消毒効果を変えずに1回の量を減らすことができ、15~20秒程度で手が乾くという利点がありました。
私たちが目指したのは、十分な消毒効果が得られ、適切な時間で乾き、かつサラッとした使用感であること。ゲル状にするための増粘剤を入れすぎるとベタついてしまうので、配合バランスを変えたサンプルを並べて、何度も使用感評価を繰り返して最高のバランスのものを見極めていきました。現在、たくさんのゲル状消毒剤がありますが、当社の『サラっとした使用感の良さ』についてはどこにも負けない自信を持っています。
また、手荒れ防止に関しては、製剤との相性もあり、どのような保湿剤を配合するか悩みましたが、保湿力も知名度も高い「ヒアルロン酸ナトリウム」を配合することで従来の液体消毒剤よりも手に優しい製剤を実現できました。
当初は医療現場向けの消毒剤として開発した「エタプラスゲル」でしたが、医療現場の方から多くの支持を受けたことから、これなら一般家庭でも風邪や感染対策のための手指衛生ツールとして受け入れられるのではないかと考え、エタプラスゲル開発時の経験を活かし、新たに一般消費者向けの消毒剤として「手ピカジェル」が誕生しました。
“ウイルスに厳しく、手には優しく”
「手ピカジェルプラス」の開発
ウイルスには、脂質、タンパク質からできているエンベロープと呼ばれる膜を持つ「エンベロープウイルス」(インフルエンザウイルスなど)と、 膜を持たない「ノンエンベロープウイルス」(ノロウイルスなど)が存在します。
アルコールはエンベロープウイルスの膜を破壊することが知られていて、ウイルスそのものへのダメージが期待できます。しかし、ノンエンベロープウイルスにはアルコールが破壊できる膜を持っていないため、一般的にアルコール消毒液が効きにくい傾向にあります。
そこで私たちはアルコールのpHを調整することでアルコールの効果が高くなることが知られていましたので、これがノンエンベロープウイルスに対しても有効に作用しないか、という予測を基にノンエンベロープウイルスにも効果的な手指消毒剤(後の「ラビジェル」)の開発をスタートさせました。開発過程では、pHを酸性側にすることでノンエンベロープウイルスに対しても効果的に作用することはわかりましたが、酸性側にし過ぎると手が荒れる原因になりますので、手荒れを引き起こさないようpHを調整しながら『ウイルスに厳しく、手指に優しい』バランスを取ることが難しいポイントでした。
このようにノンエンベロープウイルスに対しても有用なアルコール製剤を開発し、「ラビジェル」として医療現場の安心安全に貢献するだけでなく、「手ピカジェルプラス」として一般家庭の方に対してもノンエンベロープウイルスへの対応手段をお届け出来ているのかな、と感じています。
社会全体の公衆衛生の向上に寄与するため、医療現場で有用な製剤を一般家庭の皆さまと共有した「手ピカジェル」や「手ピカジェルプラス」のような安心してご利用いただける製品を今後もお届けできるよう、研究開発を続けていきます。
酸化マグネシウムE便秘薬編
病院で処方される便秘薬を
みなさんのもとへ届けるために
酸化マグネシウムは、副作用の少ない便秘薬として古くから医療機関で利用されてきたものです。しかし、一般家庭の皆さまにとっては酸化マグネシウムが便秘薬として有用な成分であるという認識は低く、ほとんど知られていませんでした。
便秘薬として酸化マグネシウムを病院で処方してもらうのに、いざドラッグストア等に行っても酸化マグネシウムの便秘薬がほとんどない。「便秘に悩む方にとって、病院で処方された成分と同じ成分のお薬の方が服用に対する抵抗感が少ないのではないか」という想いから、一般用医薬品としての製品開発が始まります。
酸化マグネシウムの錠剤は既に医療機関向けに発売をしていましたが、この製剤は当社にとって初めての錠剤製品でしたので、様々な試行錯誤を繰り返し、ようやく完成させたものです。この時のノウハウを活かし、一般家庭向けとして必要な要素を加えていきました。最も大きな特徴は『甘味』です。酸化マグネシウムの独特の苦みを5歳のお子さまでも飲みやすいよう、適度な甘味でマスクしているのですが、甘すぎても大人の方が飲みにくくなるため、ちょうどいい配合量の設定には苦労しました。また、甘味の配合を変えると錠剤を作る時の条件も変わるため、配合量と効率的に作ることとのバランスを考えながらの作業を繰り返し行い、「酸化マグネシウムE便秘薬」が誕生しました。
便秘を解消するための新しい選択肢を提案できた
酸化マグネシウムの便秘薬は、『お子さまでも服用できる非刺激性で、クセになりにくく、お腹が痛くなりにくい』とても良いお薬なのですが、伝えるべきことが多いので苦労しました。まずは便秘薬には「刺激性」と「非刺激性」の2種類があり、『酸化マグネシウムは非刺激性です』、ということを知っていただく必要がありましたので、CM制作でも早口言葉のようになってしまい大変だったことを覚えています。
刺激性の便秘薬を使って習慣化してしまった場合は、便秘そのものを治すしていることにつながらない。クセになりにくく、本当に必要な時に安心して服用できるお薬こそ、世代を問わず長く愛用いただけるはず。
非刺激性の便秘薬を一般向けの医薬品として世に送り出せたことで、安心して便秘を解消するための新しいもう1つの選択肢を提案できたと思っています。
2016年に、酸化マグネシウムを使った一般向け便秘薬を販売するにあたって「酸化マグネシウムE便秘薬」と名付けました。成分そのままのネーミングをしているのでちょっと堅いようなイメージがあるかもしれませんが、病院で酸化マグネシウムを処方されていた人にとっては馴染み深い言葉。病院で処方してもらっていた便秘のお薬がドラッグストアでも買えるんだ、とすぐにわかってもらえるように名付けています。