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【医師監修】インフルエンザ患者が出勤すると法律違反⁉ 感染症と労働に関する法律について

2022.11.28| 感染症・消毒

インフルエンザにかかったら、完治するまで1週間程度は、自宅で安静に過ごすのが一番。しかし社会人の中には、仕事が心配で、何日も休みをとりにくい……と感じる方もいるようです。無理して出勤することで感染を広げてしまうリスクを考えると、社会通念上は自宅療養が望ましいところですが、法律上はどう対処する必要があるのでしょうか。ここでは、インフルエンザにかかった場合の出勤に関する法律上の規定について解説します。

インフルエンザで「出勤」は法律違反?

裁判に使うハンマー

●季節性インフルエンザでの出勤は違法ではない

毎冬、猛威をふるうインフルエンザ。子どもたちが集団生活をおくる学校や幼稚園、保育所は、インフルエンザが発生すると、その中だけでの流行に留まらず、子どもから家庭へ、家庭から地域社会へと感染を広げる元となってしまいます。広範囲に流行することを防ぐため、学校保健安全法では、インフルエンザ患者の出席停止や学級・学校閉鎖などの処置をとるよう定めています。一方、大人が集団生活をおくる会社などでは、インフルエンザ患者について、法律による規定はあるのでしょうか。
社会人に適用されるインフルエンザなどの感染症に関する法律としては、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が制定されています。その第18条2項では、決まった感染症に感染した患者は、厚生労働省令で定める期間、業務に従事してはならないとされています。ただし、この法律の対象となるインフルエンザは、国民の多くが免疫をもっておらず、全国的かつ急速なまん延により国民の生命や健康に重大な影響を与える恐れがあるとされる新型インフルエンザや、過去に世界的規模で流行し、その後流行することなく長期間が経過した再興型インフルエンザに限られています。例年冬に流行する季節性インフルエンザは含まれていません。また、「労働安全衛生法」第68条でも同様の規定がありますが、こちらも対象は新型インフルエンザのみです。つまり、こういった法律にのっとると、新型インフルエンザや再興型インフルエンザに感染した場合は出勤を停止しなければならず、逆に季節性インフルエンザであれば出勤しても法律違反にはならないというわけです。

●就業規則で出勤停止とされている場合も

季節性インフルエンザにかかった状態で出勤しても、法律上は問題ないことが分かりました。しかし、インフルエンザウイルスが社内にまん延して体調不良の社員が増えると、会社の運営に支障が出るため、多くの企業では就業規則において、「治癒するまで出勤停止」などの就業制限を設けています。このような場合は、もし当人が出勤を望んだとしても、強制的に休みをとらざるを得ません。ただし当人が出社を望んだうえで、会社側が出勤停止を命じたケースであれば、会社の都合によるものであるため、社員には補償として平均賃金の6割以上の休業手当が支給される場合があります。また収入を減らしたくない人は、有給休暇を利用すれば全額支給されるので、そちらを申請することもできます。
なお、就業規則では「労働者が同居する家族がインフルエンザにかかった場合も出勤停止」、「解熱後はマスク着用の上、出勤可」「必ず上司へ報告」など、企業によってさまざまな規定が設けられています。もしもこれらを破り、それが発覚した場合、懲戒処分(程度によって戒告、減給、出勤停止、解雇など)を受けることもあり得ます。インフルエンザに感染した場合に備えて、一度、就業規則を確認しておくとよいしょう。

インフルエンザで会社に出勤を強要された場合

出勤中に咳き込む女性

●「労働契約法」において、出勤強要は違法性が高い

先に解説したとおり、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」や「労働安全衛生法」において、季節性インフルエンザは就業制限となる感染症の対象外です。そのため、感染しても上司から出勤を強いられるケースもあるようです。
インフルエンザ患者の出勤停止が就業規則で定められている会社であれば、休みをとることを会社としても推奨しているということ。つまり、会社が出勤を強要することはできないはずで、出勤を強要した上司は懲戒処分を受ける可能性があります。しかし、就業規則に出勤停止の規定がなければ、出勤の強要がまかり通ってしまうのでしょうか。
結論から言えば、たとえ就業規則に出勤停止の規定がないとしても、出勤の強要は法令違反にあたります。というのも、労働契約について基本的なルールがまとめられた「労働契約法」の第5条によると、「使用者(企業)は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められています。インフルエンザは重篤化すると命にかかわることがあり、また、多くの人に感染を広げてしまうリスクも高い病気です。そのため、第5条にのっとれば、企業は社員が回復するまで、適切に休養をとらせる必要があると考えられます。もし感染した社員に出勤を強要した結果、病状を悪化させたり、他の社員へ感染が拡大したりした場合、企業は社員の安全を配慮する義務を怠った“安全配慮義務違反”にあたり、損害賠償義務を負う可能性もあるのです。
以上のことから、インフルエンザ患者への出勤強要は違法性が高いといえます。もし出勤を強要された場合は、医師からの診断書をもって社内・外の労働相談窓口に問い合わせてみましょう。

まとめ

仕事を休む場合、周囲に迷惑をかけないよう段取りすることは、社会人のマナーです。しかしインフルエンザは突如発症し、治癒まで数日かかってしまうため、準備ができないまま、長期間休むことを余儀なくされてしまいます。季節性インフルエンザの場合は、無理を押して出勤しても法律上は問題ありませんが、社内に感染を広げ、かえって混乱を招くことにもなりかねません。感染が分かった時にはすぐに上司に報告し、速やかに休養をとりましょう。また、出勤強要は違法性が高いため、泣き寝入りせず、休みをとるようにしてくださいね。

木村医師よりコメント

冬の時期になると「インフルエンザが気になって」と、風邪症状を訴えて外来に来られる方が多くいらっしゃいます。また、インフルエンザの検査で陽性になると出社できないから、と一旦業務にもどられる方もいますが、もちろんこれはおすすめできません。インフルエンザにしても風邪にしても、一番の治療は療養です。体調が優れない場合にはインフルエンザ迅速検査の結果に限らず、体を休めることを優先させてください。

監修者

医師:木村眞樹子

都内大学病院、KDDIビルクリニックで循環器内科および内科として在勤中。内科・循環器科での診察、治療に取り組む一方、産業医として企業の健康経営にも携わっている。総合内科専門医。循環器内科専門医。日本睡眠学会専門医。ビジョントレーニング指導者1級資格。

 

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