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知っておきたい百日咳(百日ぜき)のこと

2025.04.11| 感染症・消毒

百日咳ってどんな病気?

百日咳は、百日咳菌(Bordetella pertussis)によって引き起こされる急性気道感染症です。

この感染症は、通常7~10日間の潜伏期間を経て、咳や鼻水といった風邪のような症状が出現します(カタル期)。次第に特徴的な激しい咳が2~3週間程度続くようになり(痙咳期(けいがいき))、その後は激しい咳が落ち着いてくるようになります(回復期)。発症してから咳が治まるまで100日程度かかることがあるために「百日咳」と呼ばれています。

百日咳は、いずれの年齢でもかかることがありますが、15歳未満の子どもに多い感染症です。特に、免疫力が十分に備わっていない乳幼児、なかでも生後6ヶ月未満の赤ちゃんが百日咳にかかると重症化しやすいため、注意が必要です。

一方で、大人や、すでにワクチン接種を済ませている子どもであっても感染し、発症することがあります。その場合には典型的な症状が現れないこともあるため、百日咳にかかっていることに気づかず、感染を広げてしまうケースが懸念されています。

そのため、百日咳について正しく理解し、適切な対策を講じておくことがとても重要です。

年齢によって違う?百日咳の症状

百日咳は年齢によって症状の現れ方が異なります。

乳幼児では、特徴的な咳があまり出ない代わりに、呼吸が突然止まってしまう無呼吸発作や、酸素不足によって皮膚や唇が青紫色になるチアノーゼといった重篤な症状が現れることがあります。そのため、保護者は乳幼児の体調や呼吸の状態を注意深く観察しておくことが大切です。

小児では、百日咳の典型的な症状として、痰が絡まない乾いた咳や、発作性の咳(痙咳)とその後に息を吸う時に「ヒューヒュー」という笛を吹いたような音が出ます。このような咳は夜間に出ることが多く、咳の発作後に嘔吐を伴うこともあります。

大人の場合、子どものような激しい咳の症状は少なく、長く続く咳(2週間以上)が現れることが多いのが特徴です。また、発熱がないことも多く、単なる風邪や気管支炎と思い込んでしまうことがあります。しかし、大人の百日咳も油断は禁物で、特に高齢者や骨粗鬆症の方にとっては、長く続く咳が原因で肋骨が骨折してしまうことがありますので注意しましょう。

表 百日咳の主な症状

年齢層

主な症状

乳幼児

無呼吸発作、チアノーゼ(酸素不足による皮膚や唇の青紫色化)

小児

典型的な痙咳、息を吸う時に笛を吹いたような音、咳後の嘔吐

大人

持続性の咳(2週間以上)、発作性の咳はあるものの小児ほど特徴的ではない、風邪と似た症状で始まることがある

どうやってうつるの?百日咳の感染経路

百日咳は、ヒトからヒトへと感染が広がる感染力が非常に強く、家庭内や施設内で感染が広がる事例が散見されています。その主な感染経路は「飛沫感染」ですが、まれに「接触感染」で感染が広がることもあります。

飛沫感染とは、感染者が咳やくしゃみをすると、百日咳菌が含まれた小さな水滴(飛沫)が空気中に放出されるので、その飛沫を吸い込み、気道粘膜に百日咳菌が付着することで感染する様式です。

接触感染とは、百日咳菌を含む飛沫が身のまわりの物品や環境に付着し、それらに触れた手で鼻粘膜などを触ることで百日咳菌を取り込んでしまう感染様式です。

百日咳は、それにかかった方自身が感染源となります。特に、咳が出始めた初期から咳が出ている間(カタル期)に感染力が強く、感染が広がります。百日咳は家庭内感染が多く、それは症状が軽い大人から抵抗力の弱い乳幼児へ感染するケースです。

百日咳の感染対策:私たちにできること

百日咳の感染を広げないためには、日頃から以下の対策を心がけることが大切です。予防接種以外の対策は、流行している状況下では特に重要なものです。

予防接種

乳幼児期には四種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ)または五種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、ヒブ)を、計4回接種する定期接種が行われています。

予防接種により、百日咳にかかるリスクや重症化するリスクを大幅に減らすことができますので、重症化する危険性が特に高い乳児には、ワクチン接種を早めに受けることが推奨されています。なお、ワクチンの効果は接種後4年から12年程度で徐々に弱まりますので、ワクチン接種済みの年齢の高い子どもや大人でも感染し、発症してしまうことがあります。

手洗いとうがい

飛沫感染や接触感染を防ぐために、こまめな手洗いを心がけましょう。特に、人込みのなかに出かけた後や、咳をしている人と近距離で会話するなどして接触した後には、石けんで丁寧に手を洗ったり、速乾性擦式アルコール製剤で手指を消毒したりすることがとても大切です。また、うがいも、喉に付着した細菌を洗い流す効果が期待できます。

咳エチケット

咳やくしゃみをする際には、ティッシュやハンカチで口と鼻を覆い、周囲に飛沫が飛散しないようにしましょう。咳などの症状がみられるときには、可能な限りマスクを着用することも、自分自身から感染を広げないために重要です。

消毒

百日咳菌は多くの消毒剤に感受性があります。日常生活での感染対策には、特に咳などで飛沫が付着した可能性のある場所や、感染者が触れた可能性のある場所を消毒すると良いでしょう。

百日咳菌に有効な消毒剤として、入手可能なものに以下があります。

(1)アルコール

アルコール(有効成分としてエタノールやイソプロパノール)は百日咳菌に対して有効です。そのため、ドアノブや手すり、照明器具のスイッチなど、手が触れやすい場所をアルコールで消毒することで接触感染のリスクを減らすことができます。アルコール濃度が適正な消毒剤(エタノールの場合には76.9~81.4vol%の濃度)を使用し、百日咳菌と十分に接触させるようにしましょう。

(2)次亜塩素酸ナトリウム

塩素系の消毒剤も百日咳菌に対して有効です。発作性の痙咳に伴うおう吐によって汚染された場所には、0.1%の濃度に調製した溶液で消毒するのが推奨されています。ただし、金属腐食性や漂白作用があるため、使用する場所には注意しましょう。

(3)ベンザルコニウム塩化物

ベンザルコニウム塩化物も百日咳菌に対して殺菌効果を示した研究結果が報告されており、この成分が含まれた消毒剤も有効です。

百日咳の治療:もし感染してしまったら

百日咳に感染した場合には、早期に医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。特に、乳幼児や基礎疾患のある方が感染した場合には、重症化を防ぐために早期の治療が不可欠です。

百日咳に対する治療は抗菌薬を用いた薬物療法がとられ、主にマクロライド系の抗菌薬(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)が用いられます。これらの抗菌薬は、風邪に似た症状が出始めた頃(カタル期)に投与することで、症状の軽減や菌の排出を抑えることができます。ただし、症状が出始めてから3週間以上経過した時期(痙咳期)では、抗菌薬の効果は限定的になりますが、周囲への感染拡大を抑制する目的で使用が推奨されています。

抗菌薬は、処方医の指示に従って、決められた期間服用することが大切です。症状が良くなったからといって自己判断で服用を中止すると、菌が完全に排除されず、再発や周囲への感染につながる可能性があります。

ひどい咳の症状に対しては、咳止め薬や痰切り薬などを用いることがあります。特に乳幼児の場合には、痰が詰まって呼吸困難になることがあるため、必要に応じて入院し、吸引や酸素投与などの処置が行われることがあります。

百日咳と診断された場合には、学校保健安全法に基づき、特有の咳が消失するまで、または適切な抗菌薬による治療が終了するまで、登園や登校を控える必要があります。大人の場合も、職場などで感染を広げないために、可能な限り自宅で療養することが望ましいでしょう。

まとめ

百日咳は、年齢によって症状が異なり、特に6か月未満の乳幼児にとっては重症化の危険性が高い感染症です。また、百日咳菌は感染力が強く、飛沫感染や接触感染によって感染が広がり、家庭内や施設内での感染の広がりが注目されています。

百日咳の感染予防には、予防接種が最も効果的ですが、日頃からの手洗いや手指消毒、咳エチケットなどの基本的な感染対策が重要なことは言うまでもありません。また、百日咳の治療には早期に抗菌薬を使用する必要がありますので、もし、周囲に百日咳が流行していたり、長く続く咳などの症状が現れたりした場合には、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。

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