【医師監修】ノロウイルスはお風呂でうつる? 子どもも大人も注意したい入浴に関するポイント [ノロウイルスなど感染症予防について]
2022.11.28| 感染症・消毒
秋から冬にかけて流行期を迎えるノロウイルス感染症。その感染力はとても強く、家族に感染者が出ると、その後、別の家族に感染が広がることも少なくありません。衣食住を共にする家庭内ではさまざまな場所に感染リスクが潜みますが、中でも盲点なのがお風呂です。今回はお風呂における感染リスクをはじめ、家庭内での感染経路や、入浴時に気を付けるべきポイントについてお伝えします。
お風呂にも注意! ノロウイルスの家庭内での感染経路
ノロウイルスの感染経路
ノロウイルスによる感染性胃腸炎には、牡蠣などのノロウイルスに汚染された食品を介して感染するケースと、感染者の嘔吐物や便を介して感染するケースがあります。一般的に、ノロウイルスは感染力がとても強いウイルスといわれます。例えば感染者の便の中には1グラムあたり10億個ものノロウイルスが含まれているといわれますが、このうち、わずか10~100個程度のウイルスが体内に侵入するだけでも感染してしまうほどです。感染すると、突発的な嘔吐や下痢に見舞われることが多く、その際の処理が不十分だと、至る所に感染リスクが広まる恐れがあるようです。
家庭内での感染リスクが高い場所
それでは、家庭内ではどのような場所に注意すればよいのでしょうか。まず、排泄や手洗いを行うトイレ・洗面所は、感染者の嘔吐物や便が付着しやすく、感染リスクが高い場所といえます。さらに、意外に見落としがちなのがお風呂です。例えば、嘔吐や下痢の症状が激しいと、それらの飛沫が体に付着している可能性は低くありません。そういった状態で感染者が体を洗うと、お風呂の床や、お風呂用の椅子、シャワーヘッド、洗面器などにウイルスが飛散して付着し、そこから感染が広がってしまうことが考えられます。また、体に嘔吐物や便が付着したまま湯船に浸かると、お湯がウイルスで汚染されてしまいます。家族がそのお湯を誤って口にすることでも感染が広がる可能性があるでしょう。
なお、一般的にノロウイルスは低温・低湿度な環境下で感染力を強めることから、温度・湿度が高いお風呂では感染リスクは低いと思うかもしれません。しかしながら、ノロウイルスが死滅するのは85℃以上の熱湯に1分間以上浸した場合とされています。そのため、お風呂でも感染する可能性はあると考えられています。
ノロウイルス感染者がお風呂に入るときの注意点
次に、家族への感染を防ぐために、入浴ではどのようなことに気を付ければよいのかみていきましょう。大前提として、嘔吐や下痢の症状が強い間は体力の消耗も激しいため、入浴を控えた方がよいでしょう。症状が治まってきたら、体に付着したウイルスを洗い流すために入浴するようにしましょう。その際、家族への感染リスクを考えて感染者は最後に入浴し、できればシャワーのみにするのが基本です。どうしても湯船に浸かりたい場合は、おしりをしっかり洗い、湯船に浸かるのは短時間で済ませましょう。長く浸かるのは、家族への感染リスクを高めるだけでなく、感染者自身に脱水症状を招く恐れもあります。
また、体を洗うタオルはもちろん、入浴後に体を拭くバスタオルは家族と共用しないようにします。お風呂あがりは身体が冷えやすく、“湯冷め”でお腹が冷えると下痢が引き起こされることもあるため、すぐに体を拭くようにしましょう。
感染者が先に入浴した場合は、お湯を入れ直すのがベストです。残り湯を洗濯用に使用するのも避けましょう。入浴後は徹底的に掃除を行い、しっかり換気することが大切です。このとき、普段の掃除方法ではノロウイルスを死滅させるのは難しいため、ウイルスの特徴を踏まえた方法で掃除を行いましょう。
なお、嘔吐や下痢の症状が治まった後も、通常は1週間程度、長ければ1カ月程度はウイルスが便中に排出され続けるといわれています。万が一、家族が感染した場合は症状が治まった後もしばらくの間、上記で紹介した注意点を意識しながら、次に紹介する掃除方法を継続するようにしましょう。
ノロウイルス感染者がお風呂に入った後の掃除方法
ノロウイルスを失活化させるには、高温での加熱消毒、もしくは次亜塩素酸ナトリウムと用いた消毒が有効だといわれています。お風呂場の掃除には、次亜塩素酸ナトリウムを0.02%に薄めた希釈液を使って消毒を行いましょう。希釈液は家庭用塩素系漂白剤で作ることができます。
●次亜塩素酸ナトリウム希釈液(濃度0.02%)の作り方
空の500mlペットボトルを用意し、半分くらいまで水を入れます。そこにキャップ約0.5杯(約2ml)の家庭用塩素系漂白剤(濃度5%)を加えた後、全量まで水を入れてふたをし、よく振って混ぜ合わせます。作る際は、塩素ガスが発生するため、十分に換気をしましょう。
●掃除の手順
消毒液を使い捨ての布に染み込ませて固く絞り、まずはお風呂のドアノブや窓のレバー、照明スイッチ、蛇口など、手で触れる場所を消毒します。次に、お風呂の床や壁、浴槽のほか、シャワーヘッドやお風呂用のいす、洗面器、排水溝なども忘れずに消毒しましょう。同様の手順で二度拭きし、10分程度放置した後、水拭き、または水で洗い流します。次亜塩素酸ナトリウムは金属に対して腐食性があるため、金属部分は念入りに水拭きしてください。
●注意点
掃除を行う時には浴室の窓を開けたり、換気扇を回したりするなど換気をしっかり行います。また、次亜塩素酸ナトリウムは皮膚への刺激が強いため、消毒時は必ず使い捨てのビニール手袋やマスクを着用し、掃除の後は使い終えた布などと共にビニール袋に密閉して捨てるようにしましょう。また、希釈した消毒液は時間の経過とともに効果が減少するため、作り置きはせずに使用の都度作るようにしましょう。
まとめ
家族がノロウイルスに感染してしまった場合は、感染リスクの高い場所や物をしっかり消毒し、タオルなどを感染者と共用しないといった、家庭内での二次感染を防ぐための対策が大切です。お風呂は、トイレや洗面所と同様に感染のリスクが考えられる場所であるため、家族の中での入浴の順序や掃除方法を工夫して二次感染を予防しましょう。
監修者
医師:木村眞樹子
都内大学病院、KDDIビルクリニックで循環器内科および内科として在勤中。内科・循環器科での診察、治療に取り組む一方、産業医として企業の健康経営にも携わっている。総合内科専門医。循環器内科専門医。日本睡眠学会専門医。ビジョントレーニング指導者1級資格。
木村医師よりコメント
普段何気なく行っている入浴ですが、体調がすぐれないときには体力を消耗しやすく、脱水症にもなりやすいといえます。特にノロウイルス感染症の場合、下痢や嘔吐を繰り返すため、食事や水分摂取が十分でないことも多いでしょう。入浴の前後には、水分摂取を心がけてください。また、二次感染予防の観点からも湯船には入らず、シャワーのみで済ませることをおすすめします。