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【医師監修】ノロウイルスが死滅する温度は何度? 知っておきたい温度との関係 [ノロウイルスなど感染症予防について]

2022.11.25| 感染症・消毒

ノロウイルス感染による激しい嘔吐や下痢をともなう食中毒は、年間を通して起こりますが、特に11月~3月にかけての冬に患者数が増加します。そのため、「ノロウイルス=冬」というイメージを持つ人も多いと思いますが、そもそもなぜ冬に流行するのでしょうか。今回は、ノロウイルスと温度との関係に着目し、冬に流行する理由と、家庭でできる予防対策法をご紹介します。

ノロウイルスは、どうして冬に流行するの?

ノロウイルスは低温に強いウイルスで、温度が低いほど長期間、生存し続けることができるといわれています。室温では約10日間生存するのに対し、気温10℃以下では約1カ月、4℃では約1~2カ月も生存でき、凍結してもほとんど不活化しないという報告もあります。またノロウイルスは、乾燥にも強いウイルス。つまり、気温が低く、空気が乾燥しがちな冬ほど感染力を保ちやすいので、ノロウイルス感染症が流行するというわけです。なお、ノロウイルスの感染原因の一つには、ノロウイルスが蓄積し汚染された牡蠣を食べることもあります。冬は牡蠣を口にする機会が増えることも、冬にノロウイルス感染症の患者数が増える理由と考えられます。

ノロウイルスが死滅する温度とは?

低温・乾燥を好むノロウイルスは、高温・高湿度の環境下では感染力が弱まります。ただし、単に気温が高く、湿度も多いという環境では死滅はしません。ノロウイルスを完全に死滅(失活化)させるには、高温での加熱が有効といわれています。牡蠣などの二枚貝の場合は、85℃~90℃で90秒以上、調理器具などは85℃以上で60秒以上の加熱を行うことで失活化できると考えられています。なおノロウイルスは、他の食中毒を起こすウイルスと比べると耐熱性が高いため、加熱が不十分では失活化できません。食品などは中心部まで火が通っているなど、十分な加熱殺菌を心がけてください。

ノロウイルスを予防する方法は?

一般的にノロウイルスの感染は、ノロウイルスに汚染された食品を生食または加熱不足で摂取する場合が主なものとされますが、その他に食品取扱者の手指にノロウイルスが付着し、その手指を介してウイルスが移り、感染してしまうという場合も少なくありません。そうした感染経路を防ぐためには「加熱」、「手洗い」、「殺菌消毒」という予防対策が重要となります。

加熱/食品は十分に加熱する

食品そのものが汚染されている場合、食品を加熱することでノロウイルスを死滅させることができます。ただし先にも述べたように、ノロウイルスは他の食中毒菌と比べて耐熱性があるため、食品の中心部までしっかりと加熱することが大切です。特にノロウイルスによる汚染の恐れがある牡蠣などの二枚貝を調理する場合は、85℃~90℃で少なくとも90秒以上加熱することが必要です。十分に加熱ができていれば、感染リスクを軽減することができるので、特に、抵抗力の弱い子どもや高齢者向けの調理は、念入りに加熱してください。

手洗い/石けんと流水でウイルスを洗い流す

手指に付着したノロウイルスを減らすためには、石けんによる手洗いが有効です。以下で紹介するタイミングを参考に、特に食品取扱者は念入りに行ってください。

<手洗いのタイミング>

  • 外出からの帰宅時
  • トイレの後(2度行うのがオススメ)
  • 感染者の便や嘔吐物の処理後(2度行うのがオススメ)
  • 食品を取り扱う直前、調理中

ノロウイルスは非常に小さいウイルスであり、皮膚表面のシワなどの凹凸にまで入り込むといわれています。そのため手洗いの際は、ノロウイルスがはがれやすくなるように、石けんを用いてください。

石けんを泡立てたら30秒以上を目安に、時間をかけて手指、爪、手首まで洗います。その後、流水でのすすぎも時間をかけて行ってください。十分にすすいだら、水気を拭き取りますが、その際、共用タオルは避け、ペーパータオルなど他の人と共有することなく、すぐ捨てられるものを使うのがオススメです。また手洗いの後、補助的にアルコール消毒剤で手指を消毒するとより万全でしょう。なお、手が荒れた状態では荒れた部分にノロウイルスが残りやすいので、普段からのハンドケアも大切です。

殺菌消毒/塩素系漂白剤で殺菌消毒する

洗面所やトイレ、ドアノブ、スイッチ、冷蔵庫のレバー、水道の蛇口など、生活環境各所に付着したノロウイルスの殺菌消毒には、85℃以上の熱湯、または次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)水溶液を使用します。水溶液は用途や対象に応じて、濃度を変えて使ってください。

<0.1%に希釈した次亜塩素酸ナトリウム水溶液>

0.1%濃度の水溶液は、感染者の便や嘔吐物、それらが付着した服、リネン類をビニール袋に密閉処理する際などに使用します。服やリネン類を入れたビニール袋に直接注ぎ込むか、ペーパータオルに水溶液を浸して被せて袋へ密閉して、殺菌消毒しましょう。

<0.02%に希釈した次亜塩素酸ナトリウム水溶液>

0.02%濃度の水溶液は、洗面所やトイレ、ドアノブなど多くの人が触れる可能性のある箇所を消毒する際に使用します。ペーパータオルに水溶液を浸して拭き取ってください。

次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用する際には、十分に換気を行い、必ずビニール手袋などを着用してください。また、調理に使用する皿やまな板、包丁などの調理器具の消毒には、十分に洗浄した後、熱湯洗浄もしくは、0.02%濃度の水溶液での殺菌消毒が有効です。調理前はもちろん、使用後もすぐに洗って調理前と同じ手順で殺菌消毒してください。なお次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、時間が経つと効果が低下するため、作り置きをせず、使用の都度使い切りましょう。

まとめ

ノロウイルスが冬に流行する理由には、低温・乾燥という冬の環境が関係していることがわかりました。ただし、夏にも発生自体はしているので、今回紹介した「加熱」、「手洗い」、「殺菌消毒」という家庭でできる予防対策を日々行い、年間を通して、感染予防に努めてくださいね。

木村医師よりコメント

低温、低湿度の冬の環境を好むノロウイルス。また、生牡蠣の旬も冬の時期です。ノロウイルスの濃縮された生牡蠣を食べると、ノロウイルス感染症になります。感染に伴う嘔吐物、下痢にはウイルスが多く含まれ、冬の環境を好むノロウイルスは長い間、滞在してしまいます。適切な処理を行い、ノロウイルス感染症の二次感染を防ぐようにしてください。

監修者

医師:木村眞樹子

都内大学病院、KDDIビルクリニックで循環器内科および内科として在勤中。内科・循環器科での診察、治療に取り組む一方、産業医として企業の健康経営にも携わっている。総合内科専門医。循環器内科専門医。日本睡眠学会専門医。ビジョントレーニング指導者1級資格。

 

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