手指衛生
手指消毒に関するQA
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アルコール擦式製剤を使用する時の注意点はありますか?
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アルコール擦式製剤は、消毒効果はありますが、汚れを落す効果はありませんので、手が目に見えて汚れている時には、石けんと流水による手洗いを行います。アルコール擦式製剤を効果的に使用するには、手指全体に薬液が行き渡る十分な量を使用することが必要です。必要量は、製剤によって違いますが、15秒以内に乾かない程度の量が必要です。使用量の目安は、Q2をご参照ください。
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アルコール擦式製剤の適切な使用量は?
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【衛生的手洗いの場合】
アルコール擦式製剤は、その使用量により手指消毒効果に差がみられることが報告されており、液状製剤の場合、1mLの使用量では3mL使用した場合に比べ、著しく効果が劣ることが証明されています34)。ゲル状製剤でも、2mL以上使用することが必要であると報告されています35)。【手術時手洗いの場合】
手術時手洗いの方法は、各施設により様々です。手術時手洗いの範囲は広範囲に及ぶため、アルコール擦式製剤を擦り込んでいる途中で乾いたら適宜追加しながら十分な量を使用することが大切です。アルコール擦式製剤を用いた手術時手洗いの例はこちらをご参照ください。 -
抗菌性スクラブ製剤は、クロルヘキシジングルコン酸塩製剤とポビドンヨード製剤どちらがいいのでしょうか?
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ポビドンヨードは、抗菌スペクトルが広く広範囲の微生物に効果を示しますが、クロルヘキシジングルコン酸塩は皮膚と強い親和性があるため、臨床での消毒効果および持続性は、クロルヘキシジングルコン酸塩の方が優れています29,30)。 しかし、過敏症や手荒れなど個体差などもあるため、選択できるように複数設置するなどの工夫も必要です。
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手術時手洗いの際、手拭きに使用するペーパータオルは、滅菌済みを使用するべきですか?
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従来、手拭きタオルは、綿タオルや綿ガーゼなどが再使用されてきましたが、近年は多くの施設で不織布のディスポーザブル製品が使用されています。従来の抗菌性スクラブ製剤による消毒方法においては、無菌操作の必要があるため、滅菌のペーパータオルが必要です。しかし、アルコール擦式製剤によるラビング法の前に行う予備洗浄の際は、無菌操作ではありませんので、未滅菌タオルで問題ありません。
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アルコール擦式製剤には、液状製剤とゲル状製剤がありますが、どちらがいいのでしょうか?
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【衛生的手洗いの場合】
液状製剤とゲル状製剤の殺菌効果を比較した検討では、液状製剤の減菌率が約99.99%に対し、ゲル状製剤の減菌率は約99.9%と報告されています8)。しかし、衛生的手洗いは、手指に付着する通過菌を除去することを目的としており、また、接触によって手指に付着する微生物数が100~1000個であるとの報告36)から考えると、ゲル状製剤であっても衛生的手洗いに必要な要件は満たしていると考えられます。また、臨床現場に即した状況での液状製剤とゲル状製剤の殺菌効果の比較検討において、両剤の殺菌効果に有意差がないことが報告されています11)。 衛生的手洗いにおいては、手洗いのコンプライアンスの向上が重要であり、ゲル状製剤、液状製剤を問わず、各製剤の使用感などを考慮し、医療従事者の方々が受け入れやすい製剤を選択することが重要です。【手術時手洗いの場合】
手術時手洗いにおいては、通過菌だけでなく、皮脂腺や汗腺などに住み着いている常在菌まで可能な限り減少させることを目的としています。そのため、衛生的手洗いに比べ、厳重な消毒が必要となります。ゲル状製剤と液状製剤の殺菌力の比較については、様々な報告がありますが、ゲル状製剤は、液状製剤と比較して、毛根や手掌のしわなど皮膚微細部への浸透性が劣るとの考えもあり10)、厳重な手指消毒効果を必要とする手術時手洗いにおいては、液状製剤を使用することが最適であると考えられます。 ヨーロッパのガイドラインでは、手術時手洗いに適した十分なデータがない場合、ゲル状製剤は、手術時手洗いに用いるべきではないとされています37) -
手術時手洗いに使用するアルコール擦式製剤は、どのようなものが良いですか? アルコールのみの製剤でもいいのでしょうか?
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手術時手洗いに使用するアルコール擦式製剤は、持続殺菌効果のある製剤が推奨されています5,33)。アルコール擦式製剤に配合されている持続性成分には、ベンザルコニウム塩化物やクロルヘキシジングルコン酸塩、ポビドンヨードがあります。ポビドンヨードは、3製剤の中で最も広い抗菌スペクトルを示しますが、クロルヘキシジングルコン酸塩は皮膚と強い親和性があるため、持続性に優れており27,28)、臨床での消毒効果および持続性は、クロルヘキシジングルコン酸塩の方が優れた効果が報告されています29,30)。また、クロルヘキシジングルコン酸塩・エタノールは、ポビドンヨード・エタノールやベンザルコニウム塩化物・エタノールより、皮膚に対する刺激についても少ないことが報告されており31)、アルコール擦式製剤の持続性成分としては、クロルヘキシジングルコン酸塩が最も適していると言えます。 また、持続性の期待できないアルコールのみの製剤を使用する場合は、アルコール擦式製剤使用の前にクロルヘキシジングルコン酸塩やポビドンヨードなど持続性のある抗菌性スクラブ製剤で消毒した後に使用する事で厳重な消毒が行えます。
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