手指衛生
衛生的手洗い
衛生的手洗いの目的
衛生的手洗いは主に患者のケアの前後に行う手洗いで、手指に付着する通過菌を極力除去することを目的としています。病院感染対策上、衛生的手洗いの遵守は大変重要です。
衛生的手洗いの変遷
従来、衛生的手洗いは石けんと流水による手洗いが推奨されていました。しかしながら、石けんと流水による手洗いを有効としている報告の多くが、30秒~1分間の手洗いによる研究を根拠としているのに対し、実際医療従事者の方が行っている石けんと流水による手洗いの時間は7~10秒以内と短いこと、また、石けんと流水による手洗いは、設備の不足や手洗い場までのアクセスの不便さなど、多忙な医療現場で遵守するには困難であることなどが分かりました。これに対してアルコール擦式製剤は、特別な設備を必要としないため手洗いに要する時間を短縮でき、なおかつ手指消毒効果も高く、皮膚刺激も少ないことから、医療従事者の受け入れが良いことが分かりました。
このような背景から、2002年に米国CDCより出された『医療現場における手指衛生のためのガイドライン』では、アルコール擦式製剤の使用が推奨され5)、国内でもアルコール擦式製剤による手洗いが主流となりました。これは2007年にCDCより出された「隔離予防策のガイドライン」や2009年にWHOより出された「医療における手指衛生ガイドライン」でも、基本的には変わりません。実際、アルコール擦式製剤の有効性は多数報告されており、アルコール擦式製剤の使用量が増えたことにより、MRSAの発生数が減少したとの報告もあります6,7)(図1)。しかし、石けんと流水での手洗いが否定されたわけではなく、このガイドラインの中でも「手が目に見えて汚れているときは石けんと流水で手を洗う」とされています。図1.アルコール擦式製剤使用量とMRSA検出数6)
衛生的手洗いに用いる消毒薬
衛生的手洗いは、患者のケアの前後など頻回に行う必要があるため、使用するアルコール擦式製剤は、十分な殺菌効果に加えて、手荒れ予防に配慮するなど、医療従事者に受け入れられやすい製剤を選ぶ必要があります。現在、国内では衛生的手洗い用のアルコール擦式製剤として、以下のような製剤が販売されています。
- ・エタノール製剤(液状製剤・ゲル状製剤)
- ・0.2%ベンザルコニウム塩化物・エタノール製剤(液状製剤・ゲル状製剤)
- ・0.2%クロルヘキシジングルコン酸塩・エタノール製剤(液状製剤・ゲル状製剤)
- ・0.5%ポビドンヨード・エタノール製剤(液状製剤)
アルコール擦式製剤は、現在、液状製剤とゲル状製剤が使用されています。従来、アルコール擦式製剤は、液状製剤が主流でしたが、液の飛散やこぼれ落ちにより、壁や床が汚れるといった問題点があり、最近では、ゲル状製剤も使われています。ゲル状製剤は、液状製剤に比べ殺菌効果が劣るという報告8-10)がありますが、一方で、臨床現場に即した状況でゲル状製剤と液状製剤の殺菌効果を比較した検討では、両剤の殺菌効果に有意差はないとの報告もあります11)。また、ゲル状製剤を導入した医療機関では、手洗いの回数が増えたとの報告12)もあります。
また、アルコール擦式製剤の成分は、ベンザルコニウム塩化物やクロルヘキシジングルコン酸塩、ポビドンヨードなどの消毒薬が配合されている製剤と、エタノールのみの製剤があります。一般的に、ベンザルコニウム塩化物などが配合されている製剤は、消毒効果に持続性が期待できますが、皮膚に対する刺激性(手荒れ)もエタノールのみの製剤に比べて強いことが報告されています13)。
衛生的手洗いは頻回に行う必要があることから、アルコール擦式製剤は、使用感や皮膚への刺激性(手荒れ)などを考慮し、選ぶことが大切です。衛生的手洗いの方法
病院感染対策上、衛生的手洗いは『一処置一手洗い』など頻回に行い、また洗い残しのない様に確実に行う必要があるため、日頃から手洗いの訓練を行うことが大切です。
アルコール擦式製剤を適量手のひらにとります。 (液状製剤:約3mL、ゲル状製剤:約2mL) | |
指先(爪)に消毒薬をよくすり込みます。 | |
手のひらによくすり込みます。 | |
手の甲にもすり込みます。 | |
指の間にもすり込みます。 | |
親指にもすり込みます。 | |
手首にも十分すり込みます。 消毒薬が乾燥するまで、よくすり込みます。 |