消毒薬の選び方
各種消毒薬の特徴
11.オキシドール(過酸化水素)
特徴
オキシドールは血液や体組織と接触すると、これらに含まれるカタラーゼの作用により分解して大量の酸素を発生する(図30)。この酸素の泡が異物除去効果(洗浄効果)を示す。
一方、オキシドールは分解しなければ(器具などのカタラーゼを含まないものに用いれば)、一般細菌やウイルスを5~20分間で、芽胞を3時間で殺滅できる。すなわち、広範囲抗微生物スペクトルを示す1)。
図30. オキシドールの作用
消毒対象
(1)器材、用具
オキシドールはアデノウイルス、単純ヘルペスウイルスおよびエイズウイルスなどの殺滅の目的で、眼科用や歯科用の器材の消毒に用いられる(図31)。
また、創傷・潰瘍の消毒(原液または2~3倍希釈液)、口内炎の洗口(10倍希釈液)、口腔粘膜の消毒、齲窩および根管の清掃・消毒、歯の清浄(いずれも原液または2~3倍希釈)などに用いられる。
表9に、オキシドールの使用例を示す2~7)。
なお、オキシドールは粘膜や血液中に存在するカタラーゼの作用により分解する。したがって、オキシドールの生体適用では、発泡による異物除去効果が期待できるものの、消毒効果は小さい。
図31. オキシドールによるバーやリーマの消毒
表9.オキシドールの使用例
対象 | 濃度、浸漬時間 | 留意点 |
---|---|---|
眼圧計のチップ 拡大鏡(スリーミラー) |
原液、10分間 | 消毒後に十分なすすぎ(リンス)が必要である |
試着したハードコンタクトレンズ | 原液、10分間 | 消毒後に十分なすすぎ(リンス)、または0.5%チオ硫酸ナトリウムによる中和が必要である |
バー リーマ |
原液、30分間 | 誤刺・切創による感染防止のため、前もっての消毒に使用 |
汚れた外傷 | 原液 | 発泡による異物除去効果と嫌気性菌に対する抗菌効果 |
洗口 | 10倍希釈液 | 洗浄、殺菌 |
取り扱い上の留意点
オキシドールは強い眼刺激性を示すので、適用後の眼科用器材には十分なすすぎ(リンス)が必要である。
オキシドールの誤った使用例
- 拡大鏡への使用後、すすぎ(リンス)を行わない→残留オキシドールによる強烈な眼刺激
- ハードコンタクトレンズへの使用後、チオ硫酸ナトリウムによる中和、または十分なすすぎ(リンス)を行わない→残留オキシドールによる強烈な眼刺激
引用文献
- Baldry MGC: The bactericidal, fungicidal and sporicidal properties of hydrogen peroxide and peracetic acid. J Appl Bacteriol 1983; 54 : 417-423.
- CDC: Recommendations for preventing possible transmission of human T-lymphotropic virus type III/lymphadenopathy-associated virus from tears. MMWR 1985; 34: 533-534.
- Wilson LA, Sawant AD, Ahearn DG: Comparative efficacies of soft contact lens disinfectant solutions against microbial films in lens cases. Arch Ophthalmol 1991; 109: 1155-1157.
- Lingel NJ, Coffey B: Effects of disinfecting solutions recommended by the Centers for Disease Control on Goldmann tonometer biprisms. J Am Optom Assoc 1992; 63: 43-48.
- Oie S, Kamiya A: Combined effects of povidone-iodine and hydrogen peroxide on spores of Clostridium tetani. Biomedical Letters 1994; 49: 209-212.
- Rutala WA: APIC guideline for selection and use of disinfectants. Am J Infect Control 1996; 24: 313-342.
- Block SS: Disinfection, Sterilization, and Preservation, 4th ed, 1991,
- Lea & Febiger, Philadelphia