消毒薬のQ&A
消毒薬のQ&A
環境感染で取りたい対応策
床の消毒方法は?
床に用いる消毒薬としては、次亜塩素酸ナトリウム(ピュリファン®P、ミルトン®など)、アルコール(消毒用エタノールIP液など)、およびベンザルコニウム塩化物(ザルコニン®、オスバン®)や両性界面活性剤(サテニジン®、テゴー51®)などがあげられます(表1)。
表1.環境消毒に用いる消毒薬
消毒薬 | 特徴 |
---|---|
次亜塩素酸ナトリウム ピュリファン®P ミルトン® など |
・ 細菌、ウイルス、芽胞に有効 ・ 金属腐食性、紙や木で効力低下 ・ 塩素ガスが粘膜を刺激する |
アルコール 消毒用エタノール液IP 消毒用エタプロコール など |
・ 細菌、ウイルスに有効 ・ 速乾性 ・ 引火性 |
ベンザルコニウム塩化物 ザルコニン® オスバン® など |
・ 細菌に有効 ・ 含浸ガーゼは細菌汚染を受けやすい(24時間以内に作り換える) |
両性界面活性剤 サテニジン® テゴー51® など |
次亜塩素酸ナトリウムは、MRSAなどの細菌やノロウイルスなどのウイルスのみならず、偽膜性大腸炎の起因菌であるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)の芽胞にも有効です。ノロウイルスやクロストリジウム・ディフィシルの芽胞で汚染された床表面には、0.1%(1,000ppm)液での清拭を行います。
アルコールは、MRSAなどの細菌のみならず、ノロウイルスなどのウイルスに有効です。速乾性が利点です。ノロウイルスなどに効力が増したアルコール製剤(ザルクリーン®、ノロパンチ®など)はさらに有用です。
一方、ベンザルコニウム塩化物や両性界面活性剤は、MRSAや腸管出血性大腸菌などの細菌に有効です。これらの消毒薬は通常10%製品が市販されているので、50倍に希釈して環境消毒に使用します。
なお、グルタラール、フタラールおよび過酢酸などの高水準消毒薬は、毒性の観点から床消毒に用いてはなりません。また、次亜塩素酸ナトリウムは木材により不活性化を受けるので、木でできた(木質の)床の消毒には不適です1)。
ノロウイルス汚染を受けた吐物の処理時での留意点
まず吐物除去を行います。そして、その後に消毒薬による清拭を行いますが、この際には広範囲面積の消毒が必要です。吐物は10m以上などの遠くまで飛び散る可能性があるからです2-5)。
また、次亜塩素酸ナトリウムをペーパータオルやティッシュペーパーに含浸させて用いることは避けてください。なぜなら、木質材質のみならずペーパー(紙)でも次亜塩素酸ナトリウムの効力は大幅に低下するからです(表2)。次亜塩素酸ナトリウムはレーヨンやコットンなどの不織布に含浸させて用いるのが望ましいです。
表2.ペーパータオルやガーゼに含浸させた次亜塩素酸ナトリウムの濃度残存率*1
材質 | 0.1%(1,000ppm)次亜塩素酸ナトリウムの用量(mL) | 残存率(%) |
---|---|---|
ペーパータオル(白色、パルプ100%)*2 | 40 | 63.1 |
20 | 52.6 | |
ペーパータオル(茶褐色、パルプ100%)*3 | 40 | 36.8 |
20 | 15.8 | |
ガーゼ(コットン100%)*4 | 40 | 84.1 |
ガーゼ(レーヨン100%)*5 | 40 | 100 |
- *1 0.1%(1,000ppm)次亜塩素酸ナトリウムを5gのペーパータオルやガーゼに含浸させて、約1分間経過後にしぼり液中の次亜塩素酸ナトリウム濃度を調べた.ペーパータオル5gと次亜塩素酸ナトリウム40mlとの組み合わせでは、次亜塩素酸ナトリウムがあふれる状態であった。
- *2 クリネックスハンドタオル(日本製紙クレシアK.K., 東京)
- *3 エリエール超吸収キッチンタオル(大王製紙K.K., 東京)
- *4 ガーゼ(川本産業K.K., 大阪)
- *5 ネオガーゼ(川本産業K.K., 大阪)
引用文献
- Oie S, Obayashi A, Yamasaki H, et al: Disinfection methods for spores of Bacillus atrophaeus, B. anthracis, Clostridium tetani, C. botulinum and C. difficile. Biol Pharm Bull 34: 1325-1329, 2011
- Cheesbrough JS, Green J, Gallimore CI, et al: Widespread environmental contamination with Norwalk-like viruses(NLV) detected in a prolonged hotel outbreak of gastroenteritis. Epidemiol Infect 125: 93-98, 2000.
- Caul EO: Small round structured viruses: airborne transmission and hospital control. Lancet 343: 1240-1242, 1994.
- Nenonen NP, Hannoun C, Svensson L, et al: Norovirus GII.4 detection in environmental samples from patient rooms during nosocomial outbreaks. J Clin Microbiol 52: 2352-2358, 2014.
- Barker J, Jones MV: The potential spread of infection caused by aerosol contamination of surfaces after flushing a domestic toilet. J Appl Microbiol 99: 339-347, 2005. DOI: 10,1111/j.1365-2672.2005.02610.x