消毒薬の選び方

消毒剤の毒性、副作用、中毒

8.フェノール(Phenol)

毒性

(単位:mg/kg)

    LD50 LC50 MLD
ヒト 経口     140
マウス 吸入   177mg/m3/4時間  
腹腔 180    
静脈 112    
経口 270    
皮下 344    
ラット 吸入   316mg/m3/4時間  
腹腔 127    
経口 317    
皮下 300    
皮膚 669    
ウサギ 腹腔     620
静脈     180
経口     420
皮下     620
皮膚 630    
イヌ 経口     500

フェノールは吸収が非常に良く、消化管からの吸収だけでなく、経皮、吸入でも速やかに吸収される。また経口摂取より、創傷部位や体腔から吸収された方が毒性は高い。

慢性毒性

  1. 全身作用
    皮膚、粘膜又は気道から吸収されるフェノールの濃度が低い場合でも、長時間吸収が続くと慢性中毒を起こすことがある。
  2. 局所作用
    低濃度のものでも、繰り返し又は長時間続けて接触すると、皮膚炎が起こる。皮膚障害のある所に繰り返しフェノールが作用すると、その部分に広い壊疽を起こすことがある。

致死量

ヒト経口推定致死量
2~10g(1gの経口で重篤)

副作用

接触例

  1. 32歳、男性。100%、75℃のフェノールを頭からかぶり蒸気を大量に吸入。体表面積の42%の化学熱傷と気道の発赤を認めた。また、25日後突然呼吸困難が出現し、閉塞性細気管支炎が認められ、最終的には肺繊維症、多発性肺嚢胞を形成した。
  2. 作業中に誤って5名の工員がフェノールを浴びた。直ちに水洗し、救急搬送されたが、いずれも皮膚の灼熱感、疼痛及び眼痛を訴えていた。

急性腎不全

48歳、男性。背部を中心に体表の約25%にタール酸(フェノール60%、クレゾール37%含有)を浴びた。化学熱傷に加えて、受傷日より急性腎不全(等張尿)像を呈した。

高ビリルビン血症

新生児室の消毒に常用して、新生児に高ビリルビン血症を生じた。

中毒症状

経口の場合

  • 口腔・咽喉の灼熱感、口腔・食道・胃粘膜の白色壊死、悪心、嘔吐、口渇、腹痛、下痢(血性下痢)
  • 頭痛、めまい、耳鳴、視力障害、蒼白、脱力感、発汗
  • 血圧低下、チアノーゼ、不規則な微弱脈、不整脈、体温低下、錯乱、一時的興奮
  • 咳、フェノール呼気臭、浅い呼吸、喘鳴呼吸、粘液性ラ音、口・鼻から泡、呼吸困難、肺水腫
  • 腎障害(蛋白尿、血尿、くすんだ黒色尿、乏尿、無尿など)、肝障害(一過性)
  • 振戦、全身痙攣、意識喪失、昏睡、ショック

皮膚に付着した場合

  • 皮膚の白色化(脱色)、疼痛及びしびれ、皮膚熱傷
    (局所の白変は時間の経過とともに発赤、褐色の痂皮を生じて剥脱する)

処置法

経口の場合

胃洗浄は禁忌 ⇒ 穿孔を起こす危険があるため (腐蝕が進んでいない場合のみ胃洗浄してもよい)

  1. 希釈剤投与
    牛乳200mL(又は緩和剤のオリブ油30mLを投与する)
  2. 吸着剤投与
    薬用炭(40~60g → 水200mL)(薬用炭のないときオリブ油、サラダ油を与える)
  3. 呼吸管理(気道確保、酸素吸入、人工呼吸など――肺水腫に注意)
  4. 循環管理(静脈路の確保)
  5. 下剤投与
    硫酸マグネシウム(30g → 水200mL)又は、マグコロール®P(50g → 水200mL)
  6. 粘膜保護剤投与
    アルロイドG®など頻回投与
  7. 輸液投与(24時間以内に大部分が排泄されるため十分な輸液を行う)
  8. 対症療法
    ・痙攣にはジアゼパム注(セルシン®)又は、フェノバルビタール注(フェノバール®
    ・アシドーシスがひどくない場合でも、重曹投与で症状軽減する
    ・ショックには乳酸リンゲル液、10%ブドウ糖液
    ・疼痛にはモルヒネ投与
    ・体温維持のため保温
    ・体温上昇があれば氷塊で冷やす(アスピリンは禁忌)
    ・メトヘモグロビン血症*1にはメチレンブルー
    *1 メトヘモグロビン血症
    第Ⅰ度:メトヘモグロビン量10~30%-治療の必要なし
    第Ⅱ度:メトヘモグロビン量30~50%-メチレンブルー100~300mgを経口投与する
    第Ⅲ度:メトヘモグロビン量50~70%

    ①100%酸素吸入
    ②メチレンブルー1~2mg/kgを1%生理食塩液として、0.1mg/kgを10分間で静注する
    症状が改善したら経口剤にきりかえる
    ③アスコルビン酸1gを緩徐に静注し、必要に応じて反復投与する

  9. 重症の場合
    血液灌流(DHP)、血液透析(HD)が有効と思われる

皮膚・粘膜に付着した場合

  1. 衣類をはぎ、皮膚に広がらないよう綿のような物で吸いとる
    50%エタノール、グリセリン、オリブ油などで洗浄し、その後水で洗う
    水による希釈は吸収を促進する
  2. 熱傷の場合は一般の熱傷と同様の処置をする