消毒薬の選び方

消毒剤の毒性、副作用、中毒

5.次亜塩素酸ナトリウム(Sodium Hypochlorite)

毒性

(単位:mg/kg)

    LD50
マウス 経口 5800

急性毒性

  1. ラットに飲料水として有効塩素12%液を投与すると、2週間投与では0.25%以上、13週間投与では0.2%以上で著しく体重増加抑制が見られた。
  2. マウスにおける経口LD50値は雄;6.8mL/kg、雌;5.8mL/kg(原液;有効塩素10%)で、原液0.1mLを雄ウサギに点眼すると、血液様分泌物の流出、角膜の混濁、結膜・瞬膜の軽度な発赤及び浮腫などが認められた。

発癌性

  1. マウスに500ppm及び1000ppm次亜塩素酸ナトリウムを飲料水として投与したところ、軽度な体重増加抑制が見られたが、発癌性は認められなかった。
  2. ラットを用いた発癌性試験(雄;0.05%,0.1%、雌;0.1%,0.2%、イオン交換水投与)においても発癌性は認められなかった。

皮膚刺激性

ウサギ背部皮膚に皮内注射し、注射部位を経時的に採取し、病理組織学的検索を行った結果、2.5%以上の濃度では全ての時期で出血が認められ、なかでも30分後に一番強く現れた。5%以上の濃度では全ての時期で壊死を生じ、1週間後に至っては、0.16%以上の濃度で類壊死と考えられる変性組織が認められた。さらに0.63%以上の濃度ではこれらの壊死及び変性組織に接した部位に肉芽組織の形成が認められた。0.04%以上の全ての濃度、全ての時期で充血と炎症性細胞浸潤が認められた。この炎症性反応は3日後に一番強く認められたが、濃度の低下に伴い漸減し、特に2.5%以下になると弱くなった。

致死量

幼児経口致死量
15~30mL(5%液)

副作用

接触皮膚炎

感作性を有するといわれる。
本品の常用により、看護師に皮膚炎が見られた。

塩素ガス吸入例

次亜塩素酸ナトリウムは酸性洗浄剤との併用により塩素ガスを発生する。

次亜塩素酸ナトリウムの酸性液での反応
  • NaOCl + HCl → NaCl + HOCl
  • HOCl + HCl → H2O + Cl2↑

塩素ガスは呼吸器系を強く刺激し、呼吸困難などの塩素中毒を起こし、それによって死亡した例があるので注意が必要である。

  1. 1988年1月9日、主婦がカビ取り剤とトイレ用洗剤を誤って混合し、発生した塩素ガスで死亡した。
塩素ガスの特性

・刺激臭
・空気の重さの約2.5倍で低い場所に停滞
・吸入により呼吸器障害

塩素ガス濃度と症状

塩素ガス 症状など
0.01 ppm 感度のよい人には匂いが感知できる
0.05 ppm 大抵の人が匂いを感知できる
0.5 ppm 間違いなく感知できる
1 ppm 職場での許容濃度
3-6 ppm 目、鼻、喉にやけつくような痛みを感じ、目の充血、涙が止まらず、鼻汁、くしゃみ、咳、声がかれる。激しい咳のため胸や腹の筋肉がいたみ、胸骨の背部にも痛みをおぼえることもある
>14 ppm 気道粘膜の障害悪化、分泌物も多く浮腫が起こる。さらに肺浮腫が発生
声門の痙攣、声が出なくなる、30~60分で呼吸困難で死亡
40 ppm ごく短時間で死亡
100 ppm 1分以上は耐えられない

[小林 勇:合成洗剤研究会誌 11(2):15-18,1988.]

誤飲例

  1. 34歳、男性。1%次亜塩素酸ナトリウムを数十mL誤飲。口内違和感とともに嘔気、その後腹痛と下痢が生じた。
  2. 3歳、男児。歯科にて髄腔内の消毒洗浄中、5%次亜塩素酸ナトリウムの漏出による皮膚びらんを生じた。
  3. 28歳、女性。歯科にて抜髄中に誤って次亜塩素酸ナトリウムを根尖孔外に溢出させたところ、根管口よりの出血と左頬部の腫脹、膨隆をきたし、自発痛及び顔面頬部皮下と頬部粘膜下に広範囲な出血班を生じた。
  4. 63歳、男性。台所用漂白剤を約100mL飲用した。その数十分後に嘔吐、約1時間後に意識消失をきたした。白血球の軽度上昇、軽度の肝機能異常、低カリウム血症を認めた。
  5. 5.25%次亜塩素酸ナトリウムの誤飲症例26例中、食道熱傷を認めたものは1例であり、後に食道狭窄をきたした症例はなかった。
  6. 65例中2例、54例中4例に食道熱傷を認めたにすぎず、本剤による消化管への危険性は少ない。
  7. 31例中17例に食道熱傷を認め、そのうち9例は非常に重篤であり、2例に食道狭窄を認めた。
  8. 72歳、女性。自殺目的にて次亜塩素酸ナトリウムを含むトイレ用漂白剤約300mLと、界面活性剤を含むトイレ用洗浄剤約400mL飲用。急性呼吸促迫症候群を発症した。
  9. 59歳、男性。自殺目的にて6%次亜塩素酸ナトリウムを飲用。意識障害と、下部食道に全周性の発赤、びらん、潰瘍をみとめ、アルカリ食道炎と診断。

中毒症状

経口の場合

  • 口腔、咽頭、食道、胃粘膜の障害に伴う灼熱感や疼痛
  • 胃刺激による悪心、嘔吐、食道狭窄(まれに胃や食道の穿孔を起こすことがある)
  • 喘音を伴う咽頭、声門、喉頭の浮腫を生じることもある
  • (重症)呼吸困難、錯乱、肺炎、肺水腫、循環不全、チアノーゼ、ショック、心停止
  • (注)誤飲した場合は口腔内に塩素臭がある
  • 皮膚・粘膜の腐蝕作用は嚥下した絶対量よりも液体の濃度による影響が大である

吸入の場合

気道粘膜の刺激、疼痛、激しい咳、肺浮腫、しわがれ声

処置法

少量を経口した場合(とくに使用濃度に希釈した液を誤飲したとき)

牛乳200mLを投与する<蛋白質により不活化するため>

大量に経口した場合(とくに製品原液をそのまま誤飲したとき)

服用後1時間以内であれば以下の処置を実施

  1. 胃洗浄(消化管の穿孔に注意して行う)
    2%チオ硫酸ナトリウム液で行う(直ちに使用できない場合は微温湯でも可)
  2. 粘膜保護剤投与
    牛乳..................
    200~400mL <次亜塩素酸の不活化作用も兼ねる>
    マーロックス®......
    成人10~15mL <随時投与する>
    アルロイドG®......
    成人10~40mL <随時投与する>
  3. 下剤投与
    硫酸マグネシウム(0.5g/kg → 水100~200mL)
    又はマグコロール®P(1g → 水4mL)/kg、又はソルビトール液5mL/kg
  4. 輸液投与
  5. 対症療法
    上部消化管の疼痛に対しては、ストロカイン®を粉末状で投与する

※消化管穿孔は外科的処置が必要