消毒薬の選び方
消毒剤の毒性、副作用、中毒
3.グルタラール(Glutaral,Glutaraldehyde)
毒性
(単位:mg/kg)
LD50 | LC50 | ||
---|---|---|---|
マウス | 腹腔 | 13.9 | |
静脈 | 15.4 | ||
経口 | 100 | ||
皮下 | >590 | ||
皮膚 | >5840 | ||
ラット | 吸入 | 480mg/m3/4時間 | |
腹腔 | 17.9 | ||
静脈 | 9.8 | ||
経口 | 134 | ||
皮下 | >750 | ||
皮膚 | >2500 | ||
ウサギ | 皮膚 | 560µL/kg |
亜急性毒性
グルタラールの皮下投与による亜急性毒性試験(35日間)をラットを用いて検討した。
25,125mg/kg投与群に投与部位の著明な炎症と壊死が見られ、その程度に相関して、血液像ならびに脾、胸腺、前立腺、腎に組織学的な反応が認められた。なお、1mg/kg投与群では、投与部位に細胞の浸潤ならびに軽度な浮腫が認められたが、その他の所見はなかった。
眼粘膜・皮膚刺激性
ウサギの眼及び皮膚に、1回適用して、その一次刺激性を検討した。
- 25%グルタラールは眼組織に対し、角膜の白濁、虹彩及び結膜に異常を認めた。
- 0.2%及び2%グルタラールは眼組織に対し、それぞれ結膜に軽度の血管拡張及び2%グルタラールでは中等度の腫脹ならびに血管拡大を認めたが、角膜及び虹彩の障害は認められなかった。
- 25%グルタラールは皮膚に対し、全例に軽度の紅斑、少数例に軽度の痂皮形成を生じたが、浮腫はなく、局所刺激性は弱いと考えられた。
- 7%以下のグルタラールは皮膚に対し、紅斑、浮腫などの障害を与えず、刺激性は認められなかった。
吸入毒性
ラット:最大耐量(25%グルタラールの濃厚蒸気による)8時間
副作用
本液の付着及びその蒸気の吸入により副作用が生じる。
皮膚炎や皮膚の白色化・硬化などが生じ、またその蒸気は眼や呼吸器系の粘膜を刺激する。
吸入例
看護師が内視鏡の消毒にグルタラールを用いたところ、喘息の発作及び鼻炎を生じた。
グルタラールの曝露による副作用
(調査人数=112名)
副作用 | 人数(%) |
---|---|
眼刺激 鼻刺激 流 涙 咽頭痛 咳嗽・喘息 鼻 炎 |
97(86.6) 92(82.1) 5( 4.5) 5( 4.5) 5( 4.5) 3( 2.7) |
皮膚炎* | 9( 8.0) |
頭 痛 悪心・嘔吐 |
7( 6.3) 4( 3.6) |
グルタラールの曝露による副作用
(床・壁への清拭使用の場合、調査人数=22名)
副作用 | 人数(%) |
---|---|
眼刺激 鼻刺激 流 涙 咽頭痛 咳嗽 |
22(100) 22(100) 4(18.1) 3(13.6) 2( 9.0) |
皮膚炎* | 1( 4.5) |
頭 痛 悪心・嘔吐 |
2( 9.0) 3(13.6) |
*グルタラール液の付着による副作用
[尾家 重治 他:日本手術部医学会誌 16(4):615-618,1995.より引用]
接触皮膚炎
- 医療従事者の両手指、手背にグルタラールによる接触皮膚炎(紅斑、丘疹)がみられた症例を3例経験した。
- 内視鏡の消毒にグルタラールを使用している52施設について調査した結果、16施設でその取り扱い者にトラブルが発生したとの報告がある。トラブルを生じた計36名の症状の内訳は、皮膚炎:32名、結膜炎:8名、鼻刺激症状:6名などであった。
- 49歳、女性。内視鏡洗浄を始めて1ヵ月経過した頃、医療従事者の両手指に瘙痒を伴う紅斑が出現し、前腕、下肢、顔面にも徐々に多数の紅斑や丘疹を認めた。アレルギー性接触皮膚炎と診断。
内視鏡に残存していたグルタラールによる影響
- 結腸内視鏡の消毒後の水洗が不十分であったため、1施設において6名の患者に直腸結腸炎が生じた。
- 消毒後のすすぎが不十分であったため、内視鏡に残存していたグルタラールによる腐蝕性咽喉頭炎3例を経験した。
- 麻酔用の気管内挿管チューブに用いた際、その洗浄が不十分であったため、7名に偽膜性喉頭気管支炎を生じた。
角膜障害
57歳、女性。眼への飛散で化学性結膜炎を起こし、約6時間後に症状の増悪がみられ、回復までに3日間を要した。
誤飲例
42歳、女性。自殺目的にて3%グルタラール約200mLを飲用。直後に2回嘔吐した後、約10時間後より腹痛が出現した。発熱を伴い、胃壁に浮腫状の肥厚と腹水を認めた。
中毒症状
経口の場合
- 口腔・咽頭痛、心窩部痛、悪心、嘔吐、腹痛、胃・十二指腸出血、下痢、下血
- めまい、歩行困難、あえぎ、無気力、筋攣縮
- 痙攣、呼吸困難、肺出血、蒼白、脈拍微弱
- 血圧低下、ショック、昏睡、肝・腎障害
- 死亡
眼に付着した場合
- 2w/v%液...自然放置の場合、角膜、結膜、紅彩に中度~重度の充血、腫脹、混濁
- 20w/v%液...瞬時の水洗でも眼内への損傷の影響は極めて大きい
吸入の場合
- グルタラールガス濃度0.006~0.023ppm 4~6時間曝露したところ、3日後に死亡した例がある。
処置法
経口の場合
- 水、牛乳を与えてから胃洗浄(腐蝕が進行している場合には穿孔する危険性がある)
- 下剤投与
硫酸マグネシウム(30g → 水200mL)又は、マグコロール®P(50g → 水200mL) - 粘膜保護剤投与
マルファ®液、アルロイドG®、アルサルミン®など - 輸液投与
アシドーシスの補正も行う - 対症療法
輸血、副腎皮質ホルモン、抗生物質などの投与
吸入の場合
- 呼吸管理(換気、酸素吸入、人工呼吸など)
- 輸液投与
- 対症療法
眼に付着した場合
- 流水で15分間以上十分洗浄する
- 対症療法
ヒアレイン®点眼液、フラビタン®眼軟膏、抗菌剤点眼液などの投与
皮膚に付着した場合
- 大量の水と石けんで洗浄
- ステロイド軟膏などの塗布