消毒薬の選び方
消毒剤の毒性、副作用、中毒
1.エタノール(Ethanol)
毒性
(単位:mg/kg)
LD50 | LC50 | MLD | LCL0 | ||
---|---|---|---|---|---|
マウス | 吸入 | 39g/m3/4時間 | |||
117g/m3/2時間 | |||||
腹腔 | 528 | ||||
4000 | |||||
静脈 | 1973 | ||||
経口 | 3450 | ||||
皮下 | 8285 | ||||
ラット | 吸入 | 20000ppm/10時間 | |||
腹腔 | 3.6 | ||||
静脈 | 1440 | ||||
動脈 | 11 | ||||
経口 | 7000 | ||||
7000 | |||||
ウサギ | 腹腔 | 963 | |||
静脈 | 2374 | ||||
経口 | 6300 | ||||
皮下 | 20000 | ||||
皮膚 | 20000 | ||||
イヌ | 腹腔 | 3000 | |||
静脈 | 1600 | ||||
経口 | 5500 | ||||
皮下 | 6000 |
慢性毒性
エタノールは体内で完全に燃焼して二酸化炭素と水になり、累積毒にはならないとされているが、一時に大量のエタノールで受けた身体組織の障害は、治癒することなくそのまま累積される場合があるので、高濃度で連続的にさらされる場合は注意を要する。
致死量
- ヒト経口致死量(大人)
- 6~10mL/kg(100%液)
- 幼小児経口致死量
- 3.6mL/kg(100%液)
- 100%エタノールとして下記の量を30分以内に服用すると危険
- 大人 250mL、幼小児 6~30mL
副作用
接触皮膚炎
70%エタノール(添加物なし)30分クローズドパッチテストの結果
陽性率:55.4% (陽性者175人、陰性者141人)
疾患 | 陽性率 |
---|---|
蕁麻疹 | 41.7% |
接触皮膚炎 | 62.2% |
脂漏性皮膚炎 | 69.2% |
尋常性座瘡 | 63.2% |
その他 | 47.2% |
[東 順子:皮膚 28(1):11-16,1986.より引用]
- 36歳、女性。消毒用エタノール消毒部位に約30分後より発赤腫脹を認めた。オープンテストを実施したところ陽性を示し、症状は2日間持続。未定型接触蕁麻疹と診断した。
- 63歳、男性。採血後に酒精綿にて圧迫止血し、翌日酒精綿を除去したところ、同部に発赤と掻痒感が出現し徐々に丘疹性局面となった。
- 57歳、女性。手術施行後、エタノールによる即時型及び遅延型アレルギー反応を示した接触皮膚炎(掻痒,滲出性紅斑)を経験した。
- 23歳、女性。数年前から飲酒及びアルコールによる皮膚消毒の後、全身又は局所に発赤、腫脹が見られた。反応は直後ではなく、数時間経って現れ、2日後には消えた。検査より、エタノールのみに反応し、即時型を伴わない遅発型皮膚反応であると判明した。
- 38歳、女性。採血時70%エタノール消毒部に一致して20~30分後より掻痒性紅斑出現。
角膜障害
- 強い流涙、眼痛、視力低下、結膜の浮腫、充血、角膜のびらんなどが見られた。
- 57歳、女性。伏臥位の手術時にクロルヘキシジンエタノールで後頸部を消毒。手術中にクロルヘキシジンエタノールが眼球に流れ込んだと考えれられ、眼球の白濁を認めた。アルコールによる角膜損傷と診断。
- 硝子体注射外来の術前洗眼において、誤って70%エタノールで洗眼した4例について、広範囲の角膜上皮剥離と、強い眼瞼・眼球結膜のびらんを生じた。
中毒症状
経口の場合
- 全身の熱感、顔面潮紅、発汗、口渇
- 体温低下、味覚・嗅覚機能の低下、痛覚閾値の上昇
- 身体失調、歩行困難、急性アルコール性ミオパチー
- 記憶障害、感情不安定、多幸感、酩酊、昏睡
- 悪心、嘔吐、急性胃炎、マロリーワイス症候群
- 呼吸促進、呼吸抑制、チアノーゼ
- 心悸亢進、血圧低下
- 代謝性アシドーシス、低血糖
- 脱水、利尿、失禁
- 肝機能障害、脳浮腫
※催眠剤との同時服用や頭部外傷の合併にも注意する
エタノールの血中濃度と症状
血中濃度 | 症状 |
---|---|
0.1 % | 反応時間の遅延 |
0.25~0.3% | 瞳孔散大、言語不明瞭、不協同性歩行 |
0.4~0.5% | 昏迷又は昏睡、低体温、低血糖 |
0.5~0.6% | 1~4時間で死亡(呼吸抑制) |
[西 玲子 他,西 勝英 監修:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂7版,医薬ジャーナル社,2003.より一部改変]
処置法
経口の場合
- 胃洗浄(2時間以内であれば行う。但し、催眠剤も服用している場合はそれ以降でも有効)
1%炭酸水素ナトリウム液、又は、クエン酸ナトリウム液 - 輸液投与(大量に行う)
5%ブドウ糖、又は、乳酸加リンゲル液
輸液1000~2000mL投与に反応しない時、ドパミン、ドブタミン投与 - ビタミン剤投与
ビタミンB1(50~100mg)、B6(20~30mg)の投与 - 呼吸管理(気道確保、気管内挿管、酸素吸入、人工呼吸など)
- 循環管理(静脈路の確保)
- 安静、体温維持のため保温
- 対症療法
- アシドーシスの補正......
- 炭酸水素ナトリウム注(メイロン®)、乳酸ナトリウム注
- 誤嚥による感染防止......
- 抗生物質(セフェム剤のうちCMD、CMZ、CPZ、CMX、CTT、CPM、LMOX のように側鎖にチオメチルテトラゾール基を持つものは、アンタビューズ様作用があるため、使用してはならない)
- 不安・興奮時.................
- ジアゼパム注(セルシン®)、ヒドロキシジンパモ酸塩注(アタラックスP®)など
- 血圧低下........................
- ドパミン注(イノバン®、カタボン®)、ノルアドレナリン注(ノルアドリナリン®)
- 脳浮腫............................
- 高張ブドウ糖、マンニトール注
- 昏睡時............................
- ナロキソン注
- 重症の場合(血中アルコール濃度が500mg/dL以上の時)
・高張ブドウ糖とインスリンの併用
・血液透析(HD)を行う