消毒薬の選び方
各種微生物に対する消毒薬の選び方
MRSA
院内感染の原因菌のなかで、MRSAは患者からの分離頻度が高い。また、患者からばらまかれたMRSAの生存期間は、1か月間などの長期にわたる1)。このため、MRSAは環境や用具などから高頻度に検出される2)。したがって、MRSA対策として、手指頻回接触面などの環境や、共用用具の消毒は重要である。
(1)感染経路
MRSAの伝播はおもに接触により生じる3-5)。「患者→医療従事者の手指→患者」(図1)や、「MRSA汚染の環境・用具→医療従事者の手指→患者」などの経路で感染する。MRSAの感染源は、もとを辿ればヒトである。
図1. MRSA汚染を受けた手指などを介して感染する
(2)有効な消毒法
MRSAにはすべての消毒薬が有効である6-9)。また、80℃・10秒間や70℃・30秒間などの熱水も有効である。
表1には、シリコンディスクに付着させたMRSA(106生菌数レベル)に対する、消毒薬や熱水の消毒効果を示した10)。本表によると、MRSAの殺滅時間は、22℃の0.1%塩化ベンザルコニウム(ザルコニン®など)や0.01%(100ppm)次亜塩素酸ナトリウム(ピュリファン®P等)などで2分間、75℃の熱水で15秒間、70℃の熱水で30秒間である。すなわち、75℃や70℃の熱水の消毒効果は、0.1%塩化ベンザルコニウムや0.01%(100ppm)次亜塩素酸ナトリウムなどに比べ優っている。
なお、バイオフィルム形成のMRSA(図2)に対して消毒薬は効きにくくなる。たとえば、バイオフィルム形成のMRSAの殺滅には、0.5%塩化ベンザルコニウムで30分間が、0.01%(100ppm)次亜塩素酸ナトリウムで60分間が必要である7)。
表1. MRSAに対する消毒薬および熱水の殺滅効果*
消毒法 | 接触後の残存率(%) | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
15秒間 | 30秒間 | 1分間 | 2分間 | 10分間 | 30分間 | |
0.1%塩化ベンザルコニウム | 5.2 | 2.69 | 0.014 | <0.001 | <0.001 | <0.001 |
0.1% 両性界面活性剤 | 24.4 | 13.1 | 1.50 | 0.57 | 0.005 | 0.003 |
0.01%(100ppm)次亜塩素酸ナトリウム | 12.4 | 0.06 | 0.05 | <0.001 | <0.001 | <0.001 |
熱水(75℃) | <0.001 | <0.001 | <0.001 | NT** | NT | NT |
熱水(70℃) | 0.002 | <0.001 | <0.001 | NT | NT | NT |
熱水(65℃) | 7.28 | 0.5 | 0.003 | <0.001 | <0.001 | <0.001 |
熱水(60℃) | 96.1 | 31.1 | 6.11 | 1.34 | <0.001 | <0.001 |
* MRSAの計3株での平均値
** 試験せず
図2. MRSAの電子顕微鏡写真(著者原図)
環境
MRSAは病院内の環境から幅広く検出される1,2,11-14)。図3には、大学病院の外来棟でのMRSA汚染調査結果を示したが、受話器(図4)やはき替え用スリッパの約20%がMRSA汚染を受けていた(定期的な消毒を行っていない場合)。このように、MRSA汚染は入院病棟のみならず、外来診察室でもまれではない。
したがって、受話器、ドアノブ、およびナースセンターのテーブルなどの手指頻回接触箇所は、すくなくとも1日1回の消毒が勧められる。この際に用いる消毒薬は、アルコール(免税の消毒用エタノールなど)が適している。なぜなら、受話器やドアノブなどの手指頻回接触箇所は、MRSAなどの細菌のみならずノロウイルスなどのウイルスによる汚染の可能性もあるからである。一方、病室内のベッド柵やオーバーテーブルなどの消毒には、通常は0.2%塩化ベンザルコニウムや0.2%両性界面活性剤(サテニジン®等)などの低水準消毒薬を選択しても差し支えない。
なお、高濃度MRSA汚染の可能性があるその他の環境表面として、シーツ、処置台(とくに皮膚科の処置台)および浴槽・沐浴槽(図5)などがあげられる8,15)。一方、疾患別のMRSA定着/感染患者の周辺環境のMRSA汚染状況を調べると、熱傷や褥瘡の患者、咳嗽があったり気管切開した患者、および低出生体重児などの周辺環境が高濃度MRSA汚染を受けていることがある。
図3. 外来棟における環境のMRSA汚染率
図4. 受話器のMRSA汚染例
周りに膜を形成しているコロニーが、黄色ブドウ球菌である。
図5. 処置台と浴槽
MRSA汚染を受けやすい。
手指
速乾性手指消毒薬が有効である。ゲル剤および液剤のいずれを用いてもよい。
用具やリネン
耐熱性の用具やリネンの消毒には、熱(70℃・10分間などの熱水や蒸気)がもっとも適している。ウォッシャーディスインフェクタ、家庭用食器洗浄機、熱水洗濯機およびフラッシャーディスインフェクタなどを用いた熱消毒を行う。また、これらの熱消毒装置がない場合には、次亜塩素酸ナトリウムや消毒用エタノールなどの中水準消毒薬や、塩化ベンザルコニウムや両性界面活性剤などの低水準消毒薬を選択する。
表2に、MRSAの消毒例を示した。MRSA汚染防止策として、ドアノブや玩具などの手指頻回接触箇所や、マンシェットや処置台などの共用物品の消毒が大切である。また、シーツは高菌量のMRSA汚染を受けやすいとの認識が必要である。
表2. MRSAの消毒例
対象 | 消毒法 |
---|---|
ドアノブ 処置台 |
・アルコール清拭 |
床頭台 オーバーテーブル |
・0.2%塩化ベンザルコニウムや両性界面活性剤で清拭 ・アルコール清拭 |
血圧計のマンシェット | ・熱水洗濯(70℃・1分間など) ・アルコール清拭 |
サチュレーションモニター | ・アルコール清拭 |
玩具 | ・アルコール清拭 ・0.05%(500ppm)次亜塩素酸ナトリウムで清拭 |
リネン | ・熱水洗濯(70℃・1分間など) ・0.1%塩化ベンザルコニウムへ30分間浸漬 |
引用文献
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