消毒薬の選び方
各種消毒薬の特徴
12.その他の消毒薬
アクリノール
アクリノールは、黄色ブドウ球菌や大腸菌などの一般細菌や、カンジダなどの酵母様真菌に抗菌力を示す。
しかし、その短時間内殺菌力は、クロルヘキシジン(ステリクロンなど)や塩化ベンザルコニウム(ザルコニンなど)に比べると弱い。
黄色ブドウ球菌、大腸菌および緑膿菌などの殺滅時間は、0.05~0.2%液で5分~1時間である1,2)。
0.01~0.2%液が口腔内の化膿局所の消毒、うがい、および皮膚の湿布などに用いられる。
ピオクタニン(院内製剤)
ピオクタニン(別名;クリスタル・バイオレットや塩化メチルロザニリン)は、黄色ブドウ球菌などのグラム陽性球菌、およびカンジダなどの酵母様真菌に有効である。
一方、緑膿菌などのグラム陰性桿菌に対する抗菌力は弱い。0.1~0.5%液が、カンジダ感染症(口内炎、癤、慢性潰瘍など)に局所使用される3)。
本薬は低刺激性の消毒薬である。しかし、口腔内や陰部などの湿潤傾向部位へ適用して、潰瘍や壊死が生じたとの報告があり、その副作用には注意を払う必要がある4~6)。
副作用防止法として、生体へは0.1~0.2%液といった低濃度液の短期間内の使用を推奨したい。
イソプロパノール
イソプロパノールには、50%、70%、および99%液の市販品がある。50%液は一般細菌に、また70%ならびに99%液はウイルス、結核菌、真菌および一般細菌などに対して用いられる。
イソプロパノールの適用および使用法は消毒用エタノールとほぼ同様であるが、両者には次のような相違点がある。
まず、毒性はイソプロパノールの方が2倍高い(中枢抑制作用)7,8,9)。また、脱脂作用もイソプロパノールの方が強い。
脱脂作用が強ければ、手指消毒において手荒れが生じやすくなる。一方、抗菌力の面では、イソプロパノールは、ロタやアデノなどの親水性ウイルスに対しての効力が弱いという欠点がある
(消毒用エタノールは有効)10,11)。価格は、イソプロパノールの方が安価である。
以上のように毒性および抗ウイルス効果の点から、イソプロパノールより、消毒用エタノールの方が有用性が高いといえる。
したがって、イソプロパノールの代替として、小量のイソプロパノールを添加した消毒用エタノール(免税の消毒用エタノール)の使用が勧められる。
イソプロパノールなどのアルコール類は、粘膜および損傷皮膚へは使用禁忌であり、また引火性に対する注意も必要である。イソプロパノールの適用法などは、消毒用エタノールを参照されたい。
クレゾール石けん、フェノール
伝染病予防法の時代には、クレゾール石けんは主力消毒薬であった。
しかし、クレゾール石けんはもともと腐食性が強い消毒薬である。原液~5倍希釈液の皮膚付着で化学熱傷が生じるのみならず、その化学熱傷部位からの吸収により全身毒性が発現する12,13)。
実際、病院や学校内などでのクレゾール石けんによる事故例は少なくない。また、本薬は分解されにくいので、環境汚染の面でも問題がある。
したがって、両性界面活性剤(ベゼトン)などの代用となり得るいくつかの消毒薬が市販されている現在では、もはやクレゾール石けんの使用は勧められない。
一方、フェノールはクレゾール石けんの類似化合物であり、消毒薬としての有用性は低い。なお、0.5~1.5%フェノールは局所麻酔作用や鎮痒作用を示すので、あせも水などの1成分として用いられる14)。
ホルマリン
ホルマリン原液はホルムアルデヒドを35~38%含有する(重合防止にメタノールを5~13%含む)。本薬の使用法には、希釈して水溶液として用いる方法とガス化(くん蒸)して用いる方法の2通りがある。
本薬を水溶液で用いる場合は、ホルムアルデヒドとして1~8%濃度とする。
しかし、同系の消毒薬でより抗菌力の強いグルタラール(ステリゾール)やフタラール(ディスオーパ)が上市されたため、1~8%ホルマリン液の消毒薬としての有用性はなくなった15)。
一方、かつて汎用されたホルマリン液を、ガス化して用いる方法は望ましくない。
ホルムアルデヒドガスは粘膜刺激性を示すのみならず、マウスの鼻粘膜に発がん性を示すことが報告されているからである16,17)。
病室のホルマリンくん蒸や、いわゆるホルマリンボックス(図32)の使用は中止する必要がある。
なお、組織固定などでのホルマリン液の取扱い時には、ゴム手袋(家庭用の袖の長いもの)とプラスチックエプロンを着用して行う18)。
また、ホルムアルデヒドガスは低濃度でも眼や呼吸器系を刺激するので19~21)、その吸入防止には注意を払う必要がある。十分な換気装置の下で取り扱う22)。
図32. ホルマリンボックス(ホルマリン顆粒からホルムアルデヒドを発生させる方法)
文献
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