消毒薬の選び方
各種消毒薬の特徴
8.クロルヘキシジン
特徴
クロルヘキシジンなどの低水準消毒薬は、抗菌スペクトルが狭い。
すなわち、MRSAなどの一般細菌、カンジダなどの酵母様真菌、およびヘルペスウイルスなどのエンベロープのあるウイルスのみに有効である(図19)。
しかし、院内感染の原因菌のおおよそ90%は、これらの微生物が占めている。また、低水準消毒薬は無臭かつ安価で、使い勝手が良い。したがって、病院内での低水準消毒薬の使用頻度は高い。
図19. 微生物の消毒薬抵抗性の強さ、およびアルコールの抗菌スペクトル
- *1 両性界面活性剤は結核菌にも有効。
- *2 低水準消毒薬はエンベロープのあるウイルスには有効。
消毒対象
(1)創傷部位
0.05%液が創傷部位の消毒に有用である1,2)。希釈・滅菌済みの0.05%製品を用いる。
(2)結膜嚢
0.02%液が結膜嚢の消毒に使用可能である。
ただし、眼毒性の発現防止のため、適用後2分間以内に滅菌水などで洗い流す必要がある。
また、毒性の観点から、無色(界面活性剤非含有)の製品のほうを選択する必要がある。希釈・滅菌済みの0.02%製品を用いる。
(3)カテーテル刺入部位、手術野
0.5%クロルヘキシジン含有の消毒用エタノールがカテーテル刺入部位や手術野の消毒に、1%クロルヘキシジン含有の消毒用エタノールがカテーテル刺入部位の消毒に有用である3-5)。
アルコールの速効性と、クロルヘキシジンの持続効果が期待できるからである。
(4)手指
洗浄剤含有の4%クロルヘキシジンは優れた消毒効果を示すだけでなく6,7)、皮膚に吸着されやすいため持続効果が期待できる8-10)。したがって、本薬は手術前の手指消毒に適している。
また、保湿剤を加えた0.2%クロルヘキシジン含有の消毒用エタノール液が日常の手指消毒に11,12)、保湿剤を加えた0.5~1%クロルヘキシジン含有の消毒用エタノール液が手術前の手指消毒に適している13,14)。
表6に、クロルヘキシジン製剤の使用例をまとめた。
表6. クロルヘキシジン製剤の使用例
一般名 | 商品名 | 使用濃度 | 消毒対象 | 備考 |
---|---|---|---|---|
クロルヘキシジン | ステリクロン ヒビテン ヒビテングルコネート オールカット クリゲン グルコロ クロヘキシン ネオクレミール フェルマジン ヘキザック ベンクロジド マスキン ラポテック ウエルアップ クロバイン ヘキシジン 〈希釈済み製品〉 ステリクロンR( 0.05, 0.1, 0.5%) ヒビディール( 0.05%) ステリクロンW( 0.02, 0.05, 0.1, 0.5%) ヘキザック水W( 0.02, 0.05, 0.1, 0.5%) マスキン水( 0.02, 0.05, 0.1, 0.5%) グルコジンW水( 0.02, 0.05, 0.1, 0.5%) グルコジンR水( 0.05, 0.1, 0.5%) |
0.02% | 外陰・外性器の皮膚 結膜嚢 |
①適用濃度に注意! (たとえば、創部に誤って、0.5%を用いると、ショックが生じる可能性がある) ②外陰・外性器の皮膚や結膜嚢への適用では、無色のクロルヘキシジン (ステリクロンW液 0.02など) を用いる ③結膜嚢への適用後には、滅菌水で洗い流す ④膀胱・腟・耳へは禁忌 |
0.05% | 創傷部位 | |||
0.1~0.5% | 手指 皮膚 医療器材 |
|||
ステリクロンスクラブヒビスクラブ マスキンスクラブ マイクロシールド クロヘキスクラブ スクラビイン フェルマスクラブ ヘキザックスクラブ クロルヘキシジングル コン酸塩スクラブ |
原液(4%) | 手指 | 頻回使用を避ける (手荒れの防止) |
|
0.5%クロルヘキシジン含有の消毒用エタノール | ステリクロンエタノールなど | 原液 | 手術野 カテーテル 刺入部位 医療器材 |
①引火性に注意! |
0.2%クロルヘキシジン含有の消毒用エタノール〈速乾性手指消毒薬〉 | ヒビソフトなど | 原液 | 手指 | ①創や手荒れがある手指には用いない(刺激性がある) ②汚れのある手指では、流水下での手洗いおよびペーパータオルでの乾燥後に用いる ③引火性に注意! |
0.5~1%クロルヘキシジン含有の消毒用エタノール〈速乾性手指消毒薬〉 | ステリクロンハンドローション0.5%など | 原液 | 手術前の手指 手指 |
①創や手荒れがある手指には用いない(刺激性がある) ②引火性に注意! |
取り扱い上の留意点
(1)適用濃度を守る
クロルヘキシジンの0.05%液は創傷部位の消毒に有用であるが、誤って0.5%液などを用いるとショックが発現する可能性がある15-17)。
また、クロルヘキシジンの0.02%液が結膜嚢の消毒に用いられるが、0.1%液を超える濃度は角膜障害の原因になる18,19)。このように、クロルヘキシジンの生体適用では、使用濃度の誤りが重篤な副作用を招く。
(2)微生物汚染を防止する
低水準消毒薬は、不適切な取り扱いにより微生物汚染を受ける。典型的な微生物汚染パターンは、次の①と②などである20-22)。
①含浸綿(ガーゼ)の分割使用
クロルヘキシジン含浸綿(ガーゼ)を24時間以上にわたって分割使用すると、細菌汚染を受けやすくなる。
汚染原因としては、水分を含んだ綿やガーゼからの栄養分が、緑膿菌などにとっての好適な増殖環境となることがあげられる22)。
したがって、クロルヘキシジン含浸綿(ガーゼ)の作り換えは、乾燥または滅菌済みの容器を用いて24時間ごとに行う必要がある。
できれば、単包装の滅菌済み0.05%クロルヘキシジン含浸綿球(ステリクロン0.05%綿球P)の使用が望ましい。
②気管内吸引チューブ浸漬用消毒薬として使用
クロルヘキシジンを気管内吸引チューブ浸漬用として用いると、細菌汚染が生じやすい。
低水準消毒薬中に痰などの汚れが混入すると、Burkholderia cepacia(セパシア菌)などが増殖してくるからである15)。
したがって、気管内吸引チューブの浸漬に、0.05%クロルヘキシジンの単剤を用いることは避けたい。8%エタノールを添加した0.1%塩化ベンザルコニウム液(ザルコニンA液0.1)などを用いる。
③0.5%のクロルヘキシジンアルコールを首から上の術野消毒には用いない
0.5%クロルヘキシジンアルコールは、術野消毒に優れた効果を示す。しかし、本薬を首から上の術野消毒に用いてはならない。本薬が誤って眼や耳へ飛び散ると、強い毒性を示すからである18,19,23)。
④洗浄剤含有4%クロルヘキシジンの頻回使用を控える
洗浄剤含有4%クロルヘキシジンは、優れた洗浄および消毒効果を示す手指消毒薬である。
しかし、本薬の10回以上/日などの頻回使用は差し控えたい。洗浄剤含有の消毒薬の頻回使用は、手荒れの原因となりやすい。
また、手荒れが生じると、病原菌の手指への定着を招くからである24,25) 。1日につき3回までなどの適正回数で使用することが大切である。
⑤洗浄剤含有4%クロルヘキシジンの容器ノズルが詰まっても、無理してノズルを押さない
洗浄剤含有4%クロルヘキシジンの容器ノズルが乾燥により詰まっても、決してノズルを強く押してはいけない。
眼へ飛入する可能性があるからである(図20)26) 。同様に、飛び散り防止の観点から、本薬を眼より高い場所に置くことも控えたい。
図20.洗浄剤含有4%クロルヘキシジンの容器ノズルを決して強く押してはならない
引用文献
- Hugo WB, et al (ed). Pharmaceutical Microbiology, 3rd ed, pp228-229, 1983, Blackwell Scientific Publications, London.
- Platt J, et al. An experimental evaluation of antiseptic wound irrigation. J.Hosp.ifect. 1984; 5, 181-188.
- 小林寛伊. 生体消毒薬使用状況調査に関する報告書. インフェクション・コントロール 2000; 9, 398-406.
- Garland JS, et al. Comparison of 10% povidone-iodine and 0.5% chlorhexidine gluconate for the prevention of peripheral intravenous catheter colonization in neonates: a prospective trial. Pediatr Infect Dis J 1995; 14, 510-516.
- Humar A, et al. Prospective randomized trial of 10% povidone-iodine versus 0.5% tincture of chlorhexidine as cutaneous antisepsis for prevention of central venous catheter infection. Clin Infect Dis. 2000; 31, 1001-1007.
- Mimoz O, et al. Chlorhexidine compared with povidone-iodine as skin preparation before blood culture. A randomized, controlled trial. Ann Intern Med 1999; 131,834-837.
- Pereira LJ, et al. An evaluation of five protocols for surgical handwashing in relation to skin condition and microbial counts. . J.Hosp.ifect. 1997; 36, 49-65.
- Pereira LJ, et al. The effect of surgical handwashing routines on the microbial counts of operation room nurses. Am J Infect. Control 1990; 18, 354-365.
- Ayliffe GA. Surgical scrub and skin disinfection. Infect.Control 1984; 5, 23-27.
- Smylie HG, et al. From Phisohex to Hibiscrub. Br Med J 1973; 4, 86-589.
- Hingst V, et al. Evaluation of the efficacy of surgical hand disinfection following a reduced application time of 3 instead of 5 min. J.Hosp. infect. 1992; 20, 79-86.
- Hobson DW, et al. Development and evaluation of a new alcohol-based surgical hand scrub formulation with persistent antimicrobial characteristics and brushless application. Am J Infect. Control 1998; 26, 507-512.
- 尾家重治, 他: 術前手指消毒におけるウォーターレス法(ラビング法)の効果. 感染制御 2009; 5, 237-242.
- 奥西淳二, 他: Waterless手術時手指消毒法の有用性. 環境感染誌 2010; 25, 217-222.
- Okano M, et al. Anaphylactic symptoms due to chlorhexidine gluconate. Arch Dermatol 1989; 125, 50-52.
- Ohtoshi T, et al. IgE antibody-mediated shock reaction caused by topical application of chlorhexidine. Clin Allergy 1986; 16, 155-161.
- Evans RJ. Acute anaphylaxis due to topical chlorhexidine acetate. Br Med J 1992; 304, 686.
- Tabor E, et al. Corneal damage due to eye contact with chlorhexidine gluconate. JAMA 1989; 261, 557-558.
- Varley GA, et al. Hibiclens keratopathy. A clinicopathologic case report. Cornea. 1990; 9, 341-346.
- Oie S, et al. Microbial contamination of antiseptic-soaked cotton balls. Biol Pharm Bull 1997; 20, 667-669.
- Oie S, et al. Microbial contamination of antiseptic and disinfectants. Am J Infect.Control 1996; 24, 389-395.
- Oie S, et al. Microbial contamination of water-soaked cotton gauze and its cause. Microbios 2001; 104, 159-166.
- 朝隈真一郎, 他. 中耳手術時に使用される消毒薬の危険性とその対策. 耳鼻 1985; 31, 715-719.
- Mäkela P. Successful hand hygiene in hospital. Z Gesamte Hyg 1990; 36, 80-81.
- Mitchell KG, et al. Skin reactions related to surgical scrub-up: results of a Scottish survey. Br J Surg 1984; 71, 223-224.
- Stott WG. Antiseptic (Hibiclens) and eye injuries. Med J Aust 1980; 2, 456.