消毒薬の選び方
各種消毒薬の特徴
6.ポビドンヨード
特徴
ポビドンヨード(イオダインM®など)はヨウ素を緩徐に遊離する製剤であり、毒性の面でヨードチンキの改良型である。 したがって、ポビドンヨードでは、ヨードチンキで必須の「正常皮膚へ適用30秒間後のアルコールでの拭き取り」は不要である。
ポビドンヨードは、結核菌、ウイルス、真菌、一般細菌、酵母様真菌および腟トリコモナスなどに効力を示す(図15)。
また、時間をかければ、クロストリジウム属(破傷風やガス壊疽などの病原体)の芽胞にも有効である。すなわち、本薬はバチルス属の芽胞を除く広範囲の微生物を殺滅できる中水準消毒薬である。
なお、ポビドンヨード原液(10%、有効ヨウ素量1%(10,000 ppm))は、希釈とともに遊離ヨウ素量が増加し、100倍希釈液で遊離ヨウ素量が最大となる。
したがって、100倍希釈液がもっとも強い殺菌効果を示す。ただし、希釈度の増加とともに有機物による不活性化も生じやすくなるので、本薬の使用は通常は原液である。
図15. 微生物の消毒薬抵抗性の強さと、ポビドンヨードの抗菌スペクトル
消毒対象
(1)「食」関連の用具
表4に、ポビドンヨードの使用例を示した。
ポビドンヨードは、正常皮膚、粘膜および創傷などの消毒に用いられる。 また、洗浄剤含有のポビドンヨード(イオダインスクラブなど)は手指消毒に、エタノール含有のポビドンヨード(イソジン®フィールド)は手術野やカテーテル刺入部位などの消毒に用いられる。
表4.ポビドンヨードの使用例
対象 | 製剤 | 備考 |
---|---|---|
創傷部位 |
|
|
手術野の皮膚 | ポビドンヨード | |
|
||
手術野の粘膜 | ||
腟・外陰部 | ポビドンヨード | 20倍希釈液を用いる |
産婦人利用イソジン®クリーム | ||
口腔 |
|
15~30倍希釈のガーグル剤を用いる |
注射部位 カテーテル刺入部位 |
ポビドンヨード | |
エタノール含有のポビドンヨード | 速乾性(30秒間で効果発現) | |
手指 |
|
頻回使用を避ける(手荒れの防止) |
*無菌製剤
取り扱い上の留意点
ポビドンヨードには、粘膜、熱傷部位および新生児の正常皮膚などからよく吸収される特性がある。
したがって、これらの部位へ頻回または広範囲に使用すると、血中ヨウ素濃度が上昇して甲状腺機能異常、代謝性アシドーシスおよび腎不全などが生じる。
そこで、ポビドンヨードでは次のことに留意したい。熱傷患者への使用では、体表面積20%以下の熱傷で、腎障害がない場合に限定する1,2)。
妊婦の腟への使用は、胎児や新生児の甲状腺機能への影響を考慮して、週1回にとどめる3)。
また、未熟児や新生児には、正常皮膚であっても広範囲または頻回の使用を避ける4,5)。たとえば、ポビドンヨードでの沐浴などは望ましくない。 この他、数ヶ月間などの長期にわたる洗口使用も避けるのが賢明であろう。
一方、ポビドンヨードを胸膜腔の洗浄に用いて、頻脈性不整脈や致死的なアレルギー性漿膜炎などが生じた例があるので、胸膜や腹膜などの体腔内への使用は避けるべきである6)。
また、本薬が湿潤状態で30分間以上にわたって接触すると、正常皮膚であっても化学熱傷が生じる7)。
したがって、術野消毒で患者と手術台の間に溜まるほど大量に用いるなど、湿潤状態での30分間以上の接触は避けねばならない。
この他、手指に洗浄剤含有のポビドンヨードを頻回に使用すると、手荒れが生じやすくなる8)。
したがって、本薬は1日3回程度までの使用にとどめるのが望ましい。表5に、ポビドンヨードの使用上の留意点をまとめた。
なお、希釈したポビドンヨードは、遮光・密封保存では比較的安定で1ヶ月間まで使用できる。
しかし、洗面器などの開放容器中の希釈液は、8~12時間で半分程度の力価となるので、8~12時間までの使用にとどめる。
一方、万能びんなどに調製したポビドンヨード原液の綿球は、調製後14日間まで使用可能である。
表5.ポビドンヨードの使用上の留意点
製剤 | 使用上の留意点 | その理由 |
---|---|---|
|
胸膜腔や腹膜腔へは用いない | アレルギーによるショック死の可能性 |
湿潤状態での30分間以上の接触を避ける | 化学熱傷が生じる | |
|
粘膜や創部に用いない | 洗浄剤が毒性を示す |
首から上の術野消毒に用いない | 誤って眼や耳に入った場合、洗浄剤が毒性を示す | |
|
粘膜や創部に用いない | アルコールが毒性を示す |
首から上の術野消毒に用いない | 誤って眼や耳に入った場合、アルコールが毒性を示す | |
患者と手術台の間に溜まるほど大量に用いない | 引火の可能性 |
引用文献
- Aiba M, Ninomiya J, Furuta K, et al: Induction of a critical elevation of povidone-iodine absorption in the treatment of a burn patient: report of a case. Jpn. J. Surg. 1999; 29, 157-159.
- Ancona A, Torre RS, Macotela E: Allergic contact dermatisis from povidone-iodine. Contact Dermatitis 1985; 13, 66-68.
- Vorherr H, Vorher UF, Mehta P, et al: Vaginal absorption of povidone-iodine. JAMA 1980; 244, 2628-2629.
- Chabrolle JP, Rossier A: Goitre and hypothyroidism in the newborn after cutaneous absorption of iodine. Arch. Dis. Child. 1978; 53, 495-498.
- Smerdely P, Lim A, Boyages SC, et al: Topical iodine-contamining antiseptics and neonatal hypothyroidism in very-low-birthweight infants. Lancet 1989; ii, 661-664.
- Joshi P: A complication of povidone-iodine. Anaesthesia 1989; 44, 692.
- 中野園子,内山昭則,上山博史,ほか:ポビドンヨードによる化学熱傷.麻酔1991; 4., 812-815.
- Michell KG, Rawluk DJR: Skin reactions related to surgical scrub-up: results of a Scotish survey. B. J. Surg. 1984; 71, 223-224.