消毒薬の選び方
各種消毒薬の特徴
3.フタラール
特徴
フタラール(ディスオーパ®)は、グルタラール(ステリゾール ®など)と同じアルデヒド系消毒薬である。
したがって、本薬の基本的な特徴はグルタラールに類似している。すなわち、本薬は材質を傷めにくい。
また、本薬の蒸気は呼吸器系や眼の粘膜を刺激し、また液付着で化学熱傷が生じる。
図6に、微生物を消毒薬抵抗性の強い順に並べるとともに、フタラールの抗菌スペクトルを示した。
図6. 微生物の消毒薬抵抗性の強さと、フタラールの抗菌スペクトル
*枯草菌の芽胞の殺滅には72~96時間が必要である。
消毒対象
フタラールは内視鏡の消毒に適している1~4)。
しかし、本薬の毒性は高いので、その他の目的での使用はできる限り控えたい。また、本薬はタンパクと結合するため、すすぎ(リンス)が行いにくいといった欠点がある。
したがって、用手法での本薬の使用も控えたい。
本薬を用手法で膀胱鏡や経食道エコーのプローブなどに用いて、化学熱傷やショックなどが生じた例が少なくない5,6)。本薬は内視鏡自動洗浄機で用いる消毒薬といえる。
表2に、内視鏡用消毒薬の使用開始後の使用期限を示した。フタラールは、グルタラールや過酢酸と異なり、緩衝化剤の添加が不要で、経時的な分解が生じにくいという特徴を示す。
表2.内視鏡用の消毒薬の使用期限の目安*
消毒薬 | 使用法 | 使用期限 | 使用期限を左右する因子 |
---|---|---|---|
フタラール ディスオーパ® |
内視鏡自動洗浄機 | 30~40回 | 水による希釈 |
グルタラール ステリゾール® など |
内視鏡自動洗浄機 | 2~2.25%製品 :20回もしくは7~10日間 3%製品:40回もしくは21~28日間 3.5%製品:50回もしくは28日間 |
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浸漬容器 | 2~2.25%製品:7~10日間 3%:21~28日間 3.5%:28日間 |
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過酢酸 アセサイド® など |
内視鏡自動洗浄機 | 25回もしくは7~9日間 |
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*グルタラールでは緩衝化剤添加後の使用期限、また過酢酸ではⅠ液とⅡ液を混合後の使用期限
取り扱い上の留意点
フタラールの蒸気は粘膜を刺激するので、取り扱い時には換気に対する配慮が必要である。窓の開放や、換気装置で対応する。
また、紙マスク(マスキー51®;興研など)の着用も望ましい(図7)。
なお、フタラールは強い眼毒性を示すので、本液の眼への飛入に対しては十分な注意が必要である。
また、本液の皮膚への付着により皮膚着色が生じるので、手袋やプラスチックエプロンなどを着用して取り扱う必要がある。
図7. フタラールの吸入防止に用いるマスク
フタラールとグルタラールの相違点
フタラールのランニングコストは、グルタラールの約2倍と高い。
また、フタラールはグルタラールに比べ、すすぎ(リンス)が行いにくいといった欠点があるので、その使用は内視鏡自動洗浄機のみとする必要がある。
さらに、フタラールでは枯草菌(Bacillus atrophaeus、旧名B. subtilis)の芽胞の殺滅に48~96時間が必要になるため、本薬の化学滅菌剤としての使用は勧められない1,7)。
言い換えれば、フタラールを関節鏡などの緊急滅菌に使用することは差し控えたい。
一方、フタラールはグルタラールに比べて蒸発しにくいので、刺激臭が少ないというメリットがある。
また、グルタラールと異なり、フタラールでは緩衝化剤の添加が不要である。さらに、緩衝化剤添加後のグルタラールと異なり、フタラールでは経時的な分解は生じない。
表3に、内視鏡用の消毒薬の特徴をまとめた。
表3.内視鏡用の消毒薬の概要
項目/ 消毒薬 | 消毒に要する時間 | 滅菌に要する時間 | 材質適合性 | 留意点 |
---|---|---|---|---|
フタラール | 10分間 | 96時間 | 良好 |
|
グルタラール | 10分間 | 6時間 | 良好 | |
過酢酸 | 5分間 | 10分間 | 一部不可 |
引用文献
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- Gregory,A.W.,Schaalje,G.B.,Smart,J.D.,Robison,R.A.: The mycobactericidal efficacy of ortho-phthalaldehyde and the comparative resistances of Mycobacterium bovis, Mycobacterium terrae, and Mycobacterium chelonae.Infect.Control Hosp.Epidemiol. 1999;20,324-330.
- Alfa,M.J.,Sitter,D.L.: In-hospital evaluation of orthophthalaldehyde as a high level disinfectant for flexible endoscopes.J.Hosp.Infect.1994;26,15-26.
- Rutala,W.A.,Weber,D.J.: Disinfection of endoscopes: review of new chemical sterilants used for high-level disinfection.Infect.ControlHosp.Epidemiol.1999;20,69-76.
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- 尾家重治,神谷 晃:アルデヒド系消毒薬の殺芽胞効果.環境感染18:401-403,2003.