消毒薬の選び方

消毒剤の基礎

6.消毒剤を取扱う時の主な注意事項

数多くある消毒剤を使い分けるためには、各種消毒剤の特長・欠点を正しく理解し、十分把握することが大切である。
消毒剤を取扱う時の主な注意事項として、①容器の材質と清潔度 ②予備洗浄 ③希釈に用いる水 ④希釈調製量 ⑤正確な濃度 ⑥希釈液の交換 ⑦表示の明確化 ⑧消毒剤の滅菌 ⑨pH ⑩消毒剤の排水 ⑪消毒剤抵抗性細菌と汚染防止対策 ⑫消毒剤の経時変化(使用開始後の安定性) ⑬消毒剤の選択と適応などがある。

(1)容器の材質と清潔度

消毒に使用する容器は常に清潔に保たれていることが必要で、1回で使いきることが望ましい。やむを得ず再利用する場合は、定期的に滅菌するか、又は滅菌精製水で十分洗浄し、乾燥したものを用いる。浸漬消毒に使用する容器はステンレス製が多いが、ガラス製、ポリエチレン製も使用される。これらに使用される浸漬容器も常に清潔に管理することが望ましい。

(2)予備洗浄

一般に消毒対象物に血液、膿など有機物が付着していると消毒剤の効果が減弱するので、予め水洗いや洗剤を用いて付着している汚染物をできるだけ除去しておくことが必要である。また、用いた洗剤は流水で十分洗い流しておく。

(3)希釈に用いる水

消毒剤を希釈する場合、原則として精製水での希釈が望ましく、滅菌精製水を用いるのが最良である。やむを得ない場合、希釈に常水(水道水)を用いることもあるが、消毒剤に影響を与えることがあるので注意する必要がある。

但し、粘膜・創傷部位に用いる消毒剤は、市販の滅菌製剤を用いるか、精製水で希釈調製後直ちに高圧蒸気滅菌するか、もしくは滅菌精製水で用時調製して用いる。

(4)希釈調製量

消毒剤の希釈調製量については、その都度必要量を調製(用時調製)することが原則である。一回で使いきるくらいの量が良く、汚染の原因となるので継ぎ足し使用は避ける。

また、経時変化を起こしやすい消毒剤(次亜塩素酸ナトリウム、グルタラールなど)や抵抗性細菌を生じやすい消毒剤(ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、クロルヘキシジングルコン酸塩、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩など)は、特に用時調製が望ましい。

(5)正確な濃度

消毒剤の殺菌効果を期待するには、使用濃度を守ることが大切である。使用濃度が低ければ殺菌効果が期待できず、また抵抗性細菌が生じやすく、濃すぎれば一般に殺菌効果が強くなるが副作用の発生が起こり得る。

従って、消毒剤の使用に当たっては、その薬物濃度の管理には常に十分な注意が必要である。

(6)希釈液の交換

希釈した消毒剤は使用によって効果が低下する場合もあり、また使用しなくても経時的に効果が低下する場合もあるので、適宜新しいものと交換することが大切である。

(7)表示の明確化

消毒剤及び希釈した消毒剤は、事故防止や他の製剤との区別のため、名称・濃度・調製日などを記入したラベルを瓶に貼付し、表示することが望ましい。

特に希釈後経時的に含量低下を起こしやすいグルタラール、次亜塩素酸ナトリウムなどは必ず調製日を明確にしておく。

(8)消毒剤の滅菌

損傷皮膚又は粘膜に汎用される作用の緩和な消毒剤であるベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩やクロルヘキシジングルコン酸塩などには抵抗性を示す菌種が報告されており(表7)、微生物汚染を招くことがあるので、市販の滅菌製剤を用いるか、精製水で希釈調製後直ちに高圧蒸気滅菌するか、もしくは滅菌精製水で用時調製して用いる。

(9)pH

消毒剤はpHにより、その殺菌効果に影響を受けるものがある(p.4表3)。

(10)消毒剤の排水

使用済の消毒剤をそのまま下水に廃棄すると種々の問題を引き起こすことがある。消毒剤が活性汚泥の細菌の増殖を抑制して排水処理施設の機能を低下させる。現在、下水道で規制されている消毒剤はフェノール類(フェノール、クレゾール、トリクロサンなど)と水銀製剤(マーキュロクロムなど)である。フェノール類の排水基準はフェノール類として5ppm以下、また水銀製剤については特別管理産業廃棄物としての排出規制があり、溶出試験において水銀又はその化合物は0.005mg以下/検液1Lと規制され、アルキル水銀化合物は検出されないこととなっている。

(11)消毒剤抵抗性細菌と汚染防止対策

作用の緩和な消毒剤であるベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩やクロルヘキシジングルコン酸塩などには抵抗性細菌が認められることがあるので、微生物汚染に注意することが必要である。

特に、ベンザルコニウム塩化物液などを含浸させた綿球やガーゼに緑膿菌やセラチア菌などが混入すると、急速に菌が増殖することがあるので、調製後、1日での廃棄とするなど注意が必要である。

消毒剤中より検出された微生物の報告例を表7に示す。

表7.各種殺菌消毒剤に抵抗性を示す菌種

消毒剤 抵抗性が報告されている菌種
ベンザルコニウム塩化物
ベンゼトニウム塩化物
・Alcaligenes faecalis
・Burkholderia cepacia
・Enterobacter cloacae
・Pseudomonas fluorescens
・Serratia marcescens
・Alcaligenes xylosoxidans
・Enterobacter agglomerans
・Pseudomonas aeruginosa
・Ralstonia pickettii
・Stenotrophomonas maltophilia
クロルヘキシジングルコン酸塩 ・Alcaligenes faecalis
・Erwinia spp.
・Pseudomonas aeruginosa
・Serratia marcescens
・Burkholderia cepacia
・Flavobacterium meningosepticum
・Ralstonia pickettii
両性界面活性剤
(アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩等)
・Alcaligenes xylosoxidans
ポビドンヨード ・Burkholderia cepacia

[小林 寬伊 監修:消毒薬の微生物汚染とその対策,ニュータキノ,2000.より引用]

消毒剤の微生物汚染防止対策

  • 1.市販の滅菌製剤を用いるか、精製水で希釈調製後直ちに高圧蒸気滅菌するか、もしくは滅菌精製水で用時調製して用いる。
  • 2.少量のアルコールを添加する。
  • 3.保存期間が長くならないようにする。
  • 4.同一容器での頻回使用、継ぎ足し使用をしない。
  • 5.使用容器は定期的に滅菌する。
  • 6.単包装の消毒綿、消毒綿球や消毒綿棒を使用する。

(12)消毒剤の経時変化(使用開始後の安定性)

希釈後の消毒剤は反復使用や時間の経過により、効力が低下するものがある。このような消毒剤の使用に当たっては、必要最少量の調製にとどめ早期に新しいものと交換するか、原則用時調製することが望ましい。使用開始後の安定性について、使用期限に影響を及ぼす因子として表8に示す。

表8.消毒剤の使用期限に影響を及ぼす因子

使用期限に影響を及ぼす因子 消毒剤
微生物汚染 ベンザルコニウム塩化物,ベンゼトニウム塩化物,アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩,クロルヘキシジングルコン酸塩
力価低下 グルタラール,次亜塩素酸ナトリウム,過酢酸
揮発による力価低下 エタノール,イソプロパノール,エタノール・イソプロパノール配合製剤,ベンザルコニウム塩化物・エタノール・ラビング,クロルヘキシジングルコン酸塩・エタノール,クロルヘキシジングルコン酸塩・エタノール・ラビング

(13)消毒剤の選択と適応

現在使用されている消毒剤の微生物に対する効果は消毒剤の種類にもよるが、作用濃度、作用時間、作用温度、pHなどにも影響される。

従って、消毒剤の選択に当たっては消毒剤の特性を十分知り、使用目的あるいは使用する部位などを考慮に入れ、十分効果が期待できるものを選択する必要がある。