消毒薬の選び方

消毒剤の基礎

3.消毒剤の効果に影響を与える因子

消毒剤は使用する条件により差がでてくる。その消毒剤の殺菌効果に影響を与える因子には、①微生物の種類、菌量 ②血液などの有機物 ③消毒対象物の性状 ④消毒剤の種類、濃度 ⑤作用時間、作用温度 ⑥pH などがある。

(1)微生物の種類、菌量

消毒剤の対象となる微生物で最も抵抗性を示すものとして芽胞菌があり、次に抵抗性を示すものとして結核菌、ウイルスがある。結核菌は外側がろう質で覆われており消毒剤が効きにくい。次に糸状真菌があり、そして消毒剤に最も感受性を示すものとして酵母様真菌、栄養型細菌(一般細菌)がある。

従って、目的とする対象微生物に対して最も効力を持つ消毒剤を選択することが大切である。

また、消毒剤の効果は菌量により影響を受ける。一般に菌量が多いと殺菌されにくいので、十分時間をかけて消毒する必要がある。

(2)血液などの有機物

消毒対象物に血液などの有機物が付着していると、消毒剤の殺菌効果に影響を与えることがある。付着・混入する有機物としては血液のほか、血清、体液成分、分泌物、喀痰、糞便、膿、吐物、各種界面活性剤などがある。これらにより殺菌力が減弱される消毒剤の使用に際しては、その殺菌効果を十分発揮させるため、消毒開始前に血液などの有機物による汚染をできるだけ洗浄し除去しておく必要がある。有機物などにより殺菌力が減弱されやすい消毒剤・減弱されにくい消毒剤を表1に示す。

また、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩、クロルヘキシジングルコン酸塩などは、石けんの存在によっても殺菌力が減弱されやすいため注意が必要である。

表1.殺菌力が減弱されやすい消毒剤・減弱されにくい消毒剤

  減弱されやすい消毒剤 減弱されにくい消毒剤
血液・体液など 次亜塩素酸ナトリウム,ポビドンヨード,ヨードチンキ,ベンザルコニウム塩化物,ベンゼトニウム塩化物,クロルヘキシジングルコン酸塩,オキシドール グルタラール,過酢酸,フタラール,フェノール,クレゾール石ケン液

(3)消毒対象物の性状

器械・器具などの消毒対象物が消毒剤によって、腐蝕・変質・変色などの影響を受ける場合、その程度によっては使用できなくなることがある(表2-1)。なお、材質に影響を与えにくい消毒剤としてグルタラール及びフタラールがあり、各種材料に対する影響が少なく、かつ殺菌力が強いので医療器具専用の殺菌消毒剤として汎用されている。

また、消毒対象物の材質により消毒剤が吸着されて、殺菌力の低下を起こすことがある(表2-2)。

表2-1.材質に影響を与える消毒剤

材質に与える影響 消毒剤
金属器具を腐蝕 次亜塩素酸ナトリウム,ポビドンヨード,ヨードチンキ,フェノール,過酢酸
非金属器具を変質・変色 エタノール,イソプロパノール,エタノール・イソプロパノール配合製剤,次亜塩素酸ナトリウム,ベンザルコニウム塩化物,ベンゼトニウム塩化物,フェノール,クレゾール石ケン液,過酢酸
材質を着色 エタノール※,イソプロパノール※,エタノール・イソプロパノール配合製剤,グルタラール,ポビドンヨード,ヨードチンキ,ベンザルコニウム塩化物※,クロルヘキシジングルコン酸塩※,アクリノール水和物
リネン類などを腐蝕・脱色 次亜塩素酸ナトリウム

※着色製剤のみ

表2-2.材質により影響を受ける消毒剤

材質による影響 消毒剤
繊維、布、ガーゼなどに吸着して
殺菌力低下
ベンザルコニウム塩化物,ベンゼトニウム塩化物,クロルヘキシジングルコン酸塩,アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩,アクリノール水和物

(4)消毒剤の種類、濃度

消毒剤の効果は、消毒剤の種類、濃度により決まる。消毒の対象が生体か器具・環境か、あるいは適応部位が皮膚か粘膜かなどにより適切な消毒剤を選択する。濃度については、使用濃度が変わると殺菌効果に影響が出るので、消毒効果を発揮させるには定められた濃度で正しく使用することが重要である。濃度が薄ければ殺菌効果が期待できず、濃すぎれば一般に殺菌効果は強くなるが副作用の発生が起こり得る。

また、実際に使用する場合、種々の要因により消毒剤の濃度低下を起こし、殺菌力を弱めることがあるので、消毒終了時での有効濃度の確保が大切である。

(5)作用時間、作用温度

消毒剤の殺菌効果は、その濃度とともに作用時間、作用温度により影響を受ける。適切な濃度で使用しても作用時間が十分でなければ期待どおりの効果は得られない。消毒剤が殺菌効果を発揮するためには、微生物に対してある一定の接触時間が必要である。必要な消毒時間は消毒剤、対象微生物などにより異なり、一般に作用時間が長いほど殺菌効果は良くなるが、副作用の発生が起こることがある。

なお、濃度が低く、温度が低いほど作用時間を延長する必要がある。

また、消毒剤の殺菌効果は作用温度によって変化する。一般に温度が高いほど殺菌力は強くなり、温度が低いほど殺菌力は弱くなる。20℃以下の温度で消毒すると期待する効果が得られない場合があるので、なるべく20℃以上で消毒することが望ましい。20℃以下で使用する場合は、あらかじめその温度における殺菌効果を調査確認しておく必要がある。

(6)pH

消毒剤はpHにより、その殺菌力に影響を受けるものがある(表3)。
極端なpHの変動がなければ、事実上特に問題はない。

表3.pHにより殺菌力に影響を受ける消毒剤

消毒剤 至適pH pHの影響
グルタラール 弱アルカリ性 アルカリ性で殺菌力強く、酸性で殺菌力減弱
過酢酸 酸 性 酸性で殺菌力強く、アルカリ性で殺菌力減弱
フタラール 中 性 アルカリ性で殺菌力減弱
次亜塩素酸ナトリウム 中性~弱アルカリ性 酸性で殺菌力強く、アルカリ性で殺菌力減弱
ポビドンヨード 弱酸性 酸性で殺菌力強く、アルカリ性で殺菌力減弱
ヨードチンキ 弱酸性 酸性で殺菌力強く、アルカリ性で殺菌力減弱
フェノール 酸 性 酸性で殺菌力強く、アルカリ性で殺菌力減弱
ベンザルコニウム塩化物 中性~弱アルカリ性 アルカリ性で殺菌力強く、酸性で殺菌力減弱
ベンゼトニウム塩化物
アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩 弱アルカリ性 弱アルカリ性で殺菌力強く、酸性、アルカリ性で殺菌力減弱
クロルヘキシジングルコン酸塩 弱酸性 アルカリ性で殺菌力減弱