背景
手術部位感染を評価した研究では、四肢骨折の修復手術前の皮膚消毒として、ヨードポバクリレックス* またはクロルヘキシジングルコン酸塩を含むアルコール溶液の使用に関して、相反する結果が得られている。
* 註:ポビドンヨードと類似の薬剤であるが、消毒後に皮膜を形成してポビドンヨードより長い消毒効果を有する
方法
アメリカとカナダの25の病院を対象としたクラスター無作為化クロスオーバー試験において、四肢骨折の整復手術の術前防腐剤として、74%イソプロピルアルコールに0.7%ヨードポバクリレックスを溶解した溶液を使用する群(ヨード群)と、70%イソプロピルアルコールに2%クロルヘキシジングルコン酸塩を溶解した溶液を使用する群(クロルヘキシジン群)に病院を無作為に割り付けた。病院では2ヵ月ごとに異なる薬剤を使用した。開放骨折または閉鎖骨折の患者集団が別々に登録され、解析に組み入れられた。主要アウトカムは手術部位感染とし、30日以内の表層切開創感染または90日以内の深部切開創感染・臓器体腔感染とした。二次的アウトカムは、骨折治癒合併症による予定外の再手術であった。
結果
合計6,785例の閉鎖骨折患者と1,700例の開放骨折患者が試験に組み入れられた。閉鎖骨折集団では、手術部位感染はヨード群で77例(2.4%)、クロルヘキシジン群で108例(3.3%)に発生した(オッズ比0.74、95%信頼区間[C I] 0.55~1.00、P=0.049)。開放骨折集団では、手術部位感染はヨード群で54例(6.5%)、クロルヘキシジン群で60例(7.3%)に発生した(オッズ比0.86、95%CI 0.58~1.27、P=0.45)。予定外の再手術、1年転帰、重篤な有害事象の頻度は両群で同様であった。
結論
四肢閉鎖骨折患者において、ヨードポバクリレックス含有アルコールによる皮膚消毒は、グルコン酸クロルヘキシジン含有アルコールによる消毒よりも手術部位感染が少なかった。開放骨折患者では、両群で結果は同様であった。
訳者コメント
手術直前の皮膚消毒に使用する消毒薬の種類については、SSI防止の観点から様々な研究が行われてきた。近年では、2016年と2017年に相次いで発行・更新された世界保健機関とアメリカ疾病対策センターのSSI防止ガイドラインにおいて、前者はアルコール含有CHGを、後者はアルコール含有の消毒薬を推奨しており、未だに定まっていない。世界保健機関のガイドラインがアルコール含有CHGを推奨している主な理由は、2016年に発行された帝王切開術後SSIに関する研究(Tuuli NG, et al. N Engl J Med 2016;374:647-655)で、アルコール含有CHGがアルコール含有ポビドンヨードよりもSSI防止効果に優れていたという結果が得られたことである。
Kenei 海外論文 PickUp Vol.91(2024年6月発行)で紹介した論文では、心臓胸部手術と消化器外科手術において、CHGアルコールを標準と考えた場合のポビドンヨードアルコールの非劣性が示された。つまり、CHGアルコールとポビドンヨードアルコールの有効性は同等であるということになる。今回紹介した論文は、同時期に発行され、皮膚消毒の影響を最も大きく受けると思われる骨折手術を対象に行われた。
結果は、以前紹介した論文と同様に、CHGアルコールに対してヨードアルコールは少なくとも非劣性であり、非開放性骨折の手術ではSSI防止効果がむしろ優っていた。本研究が先行研究と異なる点は、本研究で使用されているヨードアルコールのヨードの種類がポビドンヨードではなくヨードポバクリレックスであることである。ヨードポバクリレックスは皮膜を形成し、ポビドンヨードに比べて持続時間が長いとされ、このことがSSI防止に関連していた可能性がある。
SSI以外の創関連ないしは全身関連有害事象に差はなかったので、世界保健機関のガイドラインに押されて使用が少なくなっていた可能性があるヨードアルコールが、手術直前の皮膚消毒薬として再び頻用される状況になるのかもしれない。一方、アルコール自体もエタノールとイソプロパノールの2種類があり、濃度も製剤によってまちまちなので、厳密にどの消毒薬がSSI防止に関してベストと言えるかは、永遠の課題となるのかもしれない。今後の研究を注視したい。