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vol.99 Clostridioides difficile芽胞に対する銅含浸抗菌性表面の有効性
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目的

Clostridioides difficileC.difficile)は医療関連感染(HAI)の最も一般的な原因の一つである。C.difficileの芽胞は一般的な病院レベルの消毒剤に抵抗性であり、その除去は困難である。銅を含浸させた表面は、複数の病原体を継続的に減少させ、感染のリスクを低下させる可能性がある。この論文の目的は、C.difficile芽胞に対する銅含浸表面の有効性を評価することである。

方法

対照素材(銅なし)と20%酸化銅を含む銅素材に、105~107個のC.difficile芽胞を、5%ウシ胎児血清(FBS)塗布の有り・無しの状態で植え付けた。4時間の接触後、C.difficile芽胞を回収し、C.difficile増殖培地にプレーティングし、コロニー形成単位を数えた。銅の有効性(log10減少)はベイズ潜在変数モデルを用いて推定した。

結果

4時間後、FBS非塗布の銅素材ベッド柵と銅素材テーブルの平均芽胞量は、それぞれ97.3%・96.8%減少した(1.57・1.50log10減少)。FBSを塗布した銅素材ベッド柵とテーブルの平均芽胞数は、それぞれ91.8%・91.7%減少した(1.10・1.10 log10減少)。

結論

銅素材は4時間後にC.difficileの芽胞を大幅に減少させることができるが、結果は初期の芽胞濃度や有機物の有無によって異なる。初期芽胞量が多かったり、有機物が過剰だったりすると、芽胞が銅表面と接触するのが妨げられ、殺滅効果が減弱する可能性がある。銅含浸表面の継続的な殺芽胞効果は、芽胞負担を減らし芽胞の伝播を防ぐのに役立つ可能性がある。

訳者コメント

 前回、CDI患者のベッドに対する強化清掃対策について紹介した。そのコメントにおいて、清拭清掃と紫外線照射が現実的な解決法であると述べた。しかし、紫外線照射装置は一般に高価であり、また患者退室後でなければ使用できないという大きな欠点を抱えている。
 非接触型の環境制御法は2010年代前半に研究されたが、その時点で紫外線照射装置と蒸気化過酸化水素・銅表面の3つの方法が主な研究対象であった。しかし、蒸気化過酸化水素は部屋の空気が漏れないよう完全に密閉した形でなければ使えず、また銅表面は各病室の高頻度接触面に必要と想定されたため初期導入費用が大きいという問題が指摘されていた。そのため、これら2つは主流ではなくなり、以後は紫外線照射装置が臨床現場で広く使われるようになっている。
 一方、銅表面はベッド単位で導入できるので、導入部屋(ベッド)数を少なくすることで初期導入費用を節減できる。病棟や病原体を限定することにより、導入が現実的になる可能性がある。実際、ICUに限定して銅表面素材を導入し、医療関連感染や耐性菌(MRSAとVRE)保菌獲得を減少させたという報告もなされていた(Salgado CD, et al. Infect Control Hosp Epidemiol 2013;34:479-486)。
 今回紹介した研究は、特に環境残存効果が高く長時間の接触や処理が必要であり、銅表面が最も効果的であると考えられるC. difficileの芽胞に的を絞っているのが特徴的である。模擬的臨床現場環境での芽胞殺滅効果を検討したところ、ステンレスなどの対照素材に比べて、4時間といった比較的短時間で芽胞の減少効果を得られることが明らかになった。ただし、有機物による汚染がある場合にはその効果が減弱するのは消毒薬と同様であり、その意味で清拭清掃は依然として必要である。
 CDIのリスクが高い、あるいは既にCDIと診断されている患者に対して使用するベッドのみを銅表面素材とすることで、病棟全体として伝播防止効果を発揮できる可能性がある。今後は、臨床的アウトカムであるCDI発症や伝播を減らすかどうかを検証する必要がありそうだが、一度廃れそうになった銅表面に再び光をあてる研究であると言える。