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vol.97 オーストラリアにおける共有医療器具の洗浄・消毒強化が医療関連感染に及ぼす影響の調査(CLEEN):段階的クラスター無作為化対照試験
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背景

共有医療機器の日常的な洗浄に関する臨床的エンドポイントに基づく質の高いエビデンスは乏しい。われわれは、入院患者における医療関連感染(HAI)に対する共有医療機器の洗浄・消毒強化の効果を評価した。

方法

オーストラリアのニューサウスウェールズ州中央海岸に位置する単一病院の10病棟を対象に、段階的楔型クラスター無作為化対照試験を実施した。病院は、オーストラリア保健福祉研究所(Australian Institute of Health and Welfare)によって公的急性期グループA に分類され、ニューサウスウェールズ州に位置し、集中治療室を有し、最低10 病棟を有し、18 歳以上の患者を治療している場合に研究対象となることができた。各クラスターは無作為に割り付けられた2 病棟で構成され(単純無作為化)、6 週間ごとに新しいクラスターで介入を開始した。病棟は介入開始の2 週間前に割り付けを知らされ、主要アウトカムデータと監査データを収集する研究者は治療順序の割り付けを知らされなかった。対照群では、環境清掃の実施に変更はなかった。介入期には、21 人の専任清掃スタッフによる共有医療機器の専用清掃と消毒のための平日1 日あたり3 時間の追加清掃、継続的な教育、監査、フィードバックなどを含めた多様な手段による「清掃バンドル」が行われた。主要アウトカムは、試験期間中に病棟に入院した全患者を対象に、2 週間ごとの点有病率調査で評価されたHAI の確定症例数であった。試験終了後はAustralia New Zealand Clinical Trials Registry に登録された。

結果

2022年7月31日に病院を募集し、2023年3月20日から11月24日の間に研究を実施した。220病院の適格性を評価し、そのうち5病院に参加を呼びかけ、最初に正式な回答を得た病院が登録された。5002人の患者が試験に組み入れられた(女性2524人[50.5%]、男性2478人[49.5%])。未調整の結果では、対照群では2497人の患者で433例のHAIが確認され(17.3%、95%信頼区間15.9%~18.8%)、介入群では2508人の患者で301例のHAIが確認された(12.0%、同10.7%~13.3%)。調整後の結果では、介入後のHAI の相対的減少はマイナス34.5%(同マイナス50.3%~マイナス17.5%)であり(オッズ比0.62、同0.45~0.80、p=0.0006)、絶対的減少はマイナス5.2%(同マイナス8.2%~マイナス2.3%)であった。副作用は報告されなかった。

表1 介入によるHAI点罹患率の推定変化

解釈

共有の医療器具の洗浄と消毒を改善することにより、HAIが有意に減少し、患者のアウトカムを改善する上で洗浄が極めて重要な役割を果たすことが明らかになった。この結果は、共有器具の洗浄には専用のアプローチが必要であることを強調している。

訳者コメント

 今回は、オーストラリアの単一施設での医療器具の洗浄・清浄強化に関する研究をとりあげた。10病棟に対して、6週間ごとに2病棟ずつ洗浄・清掃強化の介入を導入していき、一旦導入した病棟は研究期間終了まで介入を続けた。介入対象は、複数の患者が触れる代表的な病院環境・器具であるトイレの便器・血圧計・輸液スタンド・輸液ポンプ・歩行器・車椅子などであった。洗浄・清拭には、Clinell Universal Wipes またはClinell Sporicidal Wipes という製品を用いた。
 介入群における40%程度のHAI減少は、相当大きな効果であると言える。また、蛍光マーカーを使用した洗浄・清掃実施遵守割合の監査では、介入前が全器具の20%程度であったものが全病棟介入導入後には90%程度に上昇している。平日1日あたり3時間の医療器具洗浄・清掃専用のスタッフを投入することにより、介入対象である様々な医療器具の洗浄・清掃が確実に行われ、かつ良質であったと考えられる。
 本研究は、患者に使用する医療器具の洗浄・清掃がHAIのリスクを低減させるために非常に重要な一要素であることを示している。患者共用の医療器具を次の患者に使用する前に適切に洗浄・清掃したり消毒滅菌したりすることは標準予防策の一つの要素であり、特に目新しい感染対策ではない。しかし、この要素に関して、洗浄・清掃専用の職員を投入するなどのマンパワー対策も講じなければ適切に実施するのが困難であるのかもしれない。今後の医療機関内での感染対策のあり方に一石を投じる研究結果である。