目的
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)およびバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対する接触予防策は、有効性に関するデータが限られており、患者への有害事象と関連している。それでも、2015年のアメリカ医療疫学会(SHEA)研究ネットワーク(SRN)の調査では、MRSA/VREに対するルーチンの接触予防策を中止した病院はわずか7%であった。本研究の目的は、MRSA/VREに対するルーチンの接触予防策を中止した病院の現在の割合と変更の動機を明らかにすることであった。
デザイン
各施設におけるMRSA/VREに対する接触予防策の現在の使用状況と見解について、SRNを対象にオンライン調査を実施した。初回調査の後、2021年5月18日から6月9日の間に2回のリマインダーが送られた。
参加施設
SRN参加施設。
結果
回答率は調査対象施設の43%(37/87)であり、回答者の35%はMRSAおよびVREに対する接触予防策をルーチンに使用していなかった。接触予防策を中止した理由として最も多く報告されたのは、医療関連感染の増加なしに接触予防策を中止した場合の安全性に関する調査であった(MRSAについては92%、VREについては100%の施設で報告された)。接触予防策を使用している施設のうち、継続する理由として最も多く報告されたのは、中止するための安全性に関するデータがないことであった(同58%と46%)。接触予防策を継続している人の多くは、施設内で接触予防策を使い分けることに関心があった(同63%と58%)。
結論
調査対象となった医療施設の3施設に1施設以上が、MRSAまたはVREに対する接触予防策を使用していない。接触予防策を継続することを選択したほとんどの施設は、別の実施戦略に関心を持っている。
訳者コメント
前回に引き続き、アメリカの医療施設において、薬剤耐性菌伝播防止としての接触予防策の実施状況に関する調査を集計した論文を紹介する。施設数は37とやや少なめであり、大学病院が22施設、市中の教育病院が6施設、その他が9施設であった。
調査内容は主にMRSAとVREに対するルーチンの接触予防策実施の有無であり、双方とも13施設が実施せず、24施設が実施していると答えた。前回紹介した論文と同様に、アメリカでは腸球菌に占めるバンコマイシン耐性株(VRE)の割合が日本よりはるかに高いためか、同じくありふれた薬剤耐性菌であるMRSAとVREに対して、ルーチンの接触予防策に関しては同等の方針で臨んでいる姿勢がうかがえた。
実施をしていない、あるいは最近やめた施設において、その理由として多く挙げられたのが、医療関連感染が増加しないという研究であった。もちろん、手指衛生の遵守状況が良い、その他の伝播防止対策を講じているなど、接触予防策をやめる代わりにその他の感染対策活動を強化している様子がうかがえる。また、本アンケートがCOVID-19流行中に実施されたため、個人防護具の節約のためと答えた施設もあったのは興味深い。
一方、継続している施設においては、その理由がまちまちであり、どの選択肢も低率であった。最も妥当かつ決定的と思われる、接触予防策をやめることによる安全性のデータが不足していることを理由として選択した施設は半数程度であり、根拠が明確でないということを認識しつつ、何となく接触予防策を継続している様子もうかがえる。
患者に対する観察機会の低下による医療安全対策の観点からの懸念や、療養中の医療従事者などとの対話の減少による精神的な影響なども含めて、薬剤耐性菌保菌・感染患者へのルーチンの接触予防策実施は問題が多い。CDCの隔離予防策ガイドラインにおける経路別予防策やその適応に関する改訂内容に注目したい。