目的
コロナウイルス感染症2019(COVID-19)パンデミック後の時代において、医療施設が多剤耐性菌(MDRO)患者に対する接触予防策をどのように採用しているかを理解し、2014年以降の変化を探る。
デザイン
横断調査。
参加者
感染対策または病院疫学に従事するEmerging Infections Network(EIN)の医師。
方法
2022年9月、入院患者施設におけるMDRO感染を減少させるための接触予防策と補助的対策に関する8問の調査を電子メールで送付した。また、COVID-19パンデミック以降の変化についても質問した。記述統計を用いてデータを要約し、2014年に実施した同様の調査と結果を比較した。
結果
EIN会員708人のうち283人(40%)が調査に回答し、201人が感染対策に従事していると報告した。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)およびバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)に対しては、それぞれ過半数の施設(66%および69%)が日常的に接触予
防策を使用していたが、2014年にはそれぞれ93%および92%であった。Candida auris、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)、カルバペネム耐性Acinetobacter baumannii(CRAB)に対しては、ほぼ全員(90%以上)が接触予防策を使用している。
カルバペネム耐性緑膿菌(CRPA)と基質拡張型β- ラクタマーゼ(ESBL)産生グラム陰性菌については、よりばらつきがあることが報告された。2014年と比較して、MRSAとVREの積極的監視培養を実施する病院が減少した。全体として、90%の施設が全入院
患者または一部の入院患者にクロルヘキシジングルコン酸塩清拭を使用し、53%が退院時に紫外線または過酸化水素蒸気消毒を使用していた。多くの回答者(44%)が、COVID-19以降に接触予防策を変更し、現在も継続していると報告した。
結論
MDROの伝播を減少させることを目的とした経路別予防策および補助的感染防止対策の使用には多様性が存在する。このばらつきは、医療施設における接触予防策の使用に関するさらなる研究と共に最新の特定のガイダンスの必要性を反映している。
訳者コメント
本論文は、アメリカの医療施設において、薬剤耐性菌伝播防止としての接触予防策や積極的監視培養がどの程度実施されているかを調査したものである。回答者の施設背景は、大学病院を含む教育病院が約65%、市中病院が30%、その他若干である。上記の表に示した主な結果は、教育病院と市中病院の間でほとんど差がなかったので、アメリカの急性期病院における現状と捉えることができる。
特に注目されるのが、MRSAとVREに対するルーチンの接触予防策実施割合とその変化である。
日本では、腸球菌に占めるVREの割合が極めて低く、VREの検出や伝播はアウトブレイクと捉えて対応するのが通常である。一方、MRSAはあまりにもありふれており、保菌者に対する接触予防策をルーチンに講じている施設はおそらく皆無であろう。一方、アメリカでは腸球菌に占めるVREの割合が比較的高いこともあってか、ルーチンの接触予防策の実施割合はMRSAに対するそれとほぼ同等である。
また、2014年の調査に比べて2022年にはそれらの割合が大きく低下している。接触予防策によるガウンや手袋の消費増大や、それらの着脱に必要な医療従事者の時間消費などを考えると、手指衛生や環境の強化清掃・消毒など他の手段でこれらの病原体の伝播を防ぐ方向で対応する医療施設が増えているとも考えられる。
その他の注目すべき点としては、MRSA・VRE・ESBL産生菌以外の病原体に対してはほとんどの施設がルーチンに接触予防策を講じていることである。これらは比較的まれな病原体であり、治療薬の選択も限られるため、各施設とも厳重に対応するということなのだろう。
CDCの隔離予防策ガイドラインおよび耐性菌対策ガイドラインでは、MRSAやVREに対するルーチンの接触予防策の適応が推奨されているが、現実に即していないという状況が改めて浮き彫りになったと言える。隔離予防策ガイドラインは現在、主にCOVID-19の経路別予防策を取り込むための改訂作業中であるが、どのような形に仕上がるか注目される。