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vol.94 術後黄色ブドウ球菌感染リスクと黄色ブドウ球菌保菌の菌量や部位との関連性
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背景

黄色ブドウ球菌(SA)による手術部位感染(SSI)および術後の血流感染(BSI)の発症リスクに対する、鼻腔外のみのSA保菌・複数の身体部位でのSA保菌・保菌の菌量が独立して与える影響は不明である。我々は、この大規模前向きコホート研究でこれらの影響を定量化することを目指した。

方法

18歳以上の手術患者を対象に、手術前30日以内に鼻・咽頭・肛門周囲の SA保菌の有無をスクリーニングした。SA保菌者と非保菌者を 2:1の割合で前向きコホート研究に登録した。加重多変量Cox比例ハザードモデルを用いて、SA保菌のさまざまな指標と術後90日以内の SA SSI/BSI発生との独立した関連を評価した。

結果

5004例の患者を研究コホートに登録し、うち3369例(67.3%)がSA保菌者であった。追跡期間中に100件のSA SSI/BSIイベントが発生し、このうち86件(86%)がSA保菌者に発生した。SA保菌部位の数(調整ハザード比[aHR]:3.5~8.5)および鼻のSA菌量の増加(aHR:1.8~3.4)は、SA SSI/BSIリスクの上昇と関連していた。しかしながら、鼻腔外のみの保菌はSA SSI/BSIとは独立して関連していなかった(aHR:1.5、95%CI:0.9-2.5)。

結論

鼻腔内SA保菌はSA SSI/BSIのリスク上昇と関連しており、SA感染の大部分を占めていた。細菌量が多いこと、および複数の身体部位にSAが定着していることが、このリスクをさらに増加させた。

訳者コメント

 黄色ブドウ球菌(SA)の保菌は様々な医療関連感染と関連していると考えられており、特にSSIとBSIへの影響が大きい。そのため、手術患者ではSAの保菌スクリーニングと保菌陽性者に対する除菌がしばしば行われている。日本ではSAのうちMRSAのみをターゲットとすることが多いが、アメリカや欧州の一部の国ではSA全体をターゲットとすることが多い。本研究は、その影響を多角的に検討したものであり、保菌の有無だけでなく保菌の部位の数や菌量まで評価対象とした。その結果、保菌部位の多さや菌量の多さがSAによるSSIやBSIのリスクと有意に関連していることが示された。
 ただし、SAの菌量については検体採取の手技による結果のばらつきが考えられ、また保菌部位についてはスクリーニングを何カ所に対して行うかによってそもそも本研究の所見が活かされるかどうかに関する課題がある。通常、スクリーニング部位は鼻腔のみであり、2カ所以上の部位をスクリーニング対象とすることはあまり現実的ではない。将来的に、スクリーニング検査が一層容易になった場合、本研究で示された保菌部位数とSA感染症リスクとの関連が有意義な所見となるだろう。