背景
環境消毒は、医療関連感染(HAI)の蔓延を抑えるために不可欠である。これまでの研究では、感染減少における紫外線(UV)の効果に関して相反する結果が報告されている。
本試験では、標準的な患者退室後最終清掃にパルス式キセノンUV(PX-UV)を追加することによる、環境関連HAI(eiHAI)の減少への影響を評価した。
方法
LAMP(Lowering the Acquisition of MDROs with Pulsed-xenon)試験は、2つの病院(15箇所の入院病棟)において、標準的な最終清掃にPX-UV(介入群)または偽物*(対照群)による消毒を比較する集団化無作為化対照二重盲検介入交叉試験として実施された。
主要アウトカムは、試験対象病棟への入院4日目以降またはそこからの退院後3日以内の臨床微生物学的検査によるeiHAIの発生頻度とした。eiHAIには、バンコマイシン耐性腸球菌、基質拡張型β-ラクタマーゼ産生大腸菌または肺炎桿菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、またはAcinetobacter baumanniiの臨床検体陽性、およびClostridiodes difficile陽性の便ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が含まれた。
*:訳者註:使用者が本物のPX-UV照射装置と区別が付かないように工夫された、UVを発しない装置
結果
2017年5月18日~2020年1月7日の間に25,732例が組み入れられ、eiHAI発生数は601件、患者日数は180,954日であった。介入群と対照群でeiHAIの発生頻度に差はなかった(それぞれ3.49vs3.17件/1,000患者日、相対リスク1.10、95% CI:0.94-1.29、P=0.23)。試験結果は、eiHAIの種類、病院、および病棟のタイプで層別化しても同様であった。
結論
LAMP試験では、最終清掃後にUV消毒を追加することによるeiHAI発生頻度の減少効果を実証することはできなかった。HAIを減少させるための病院環境表面および非接触型技術の役割を対象としたさらなる研究が必要である。
訳者コメント
紫外線照射装置は2010年代にアメリカから使用が始まり、多くの研究でその効果が示されている。しかし、その効果は当然ながら環境に長く生存しがちな病原体による感染や保菌獲得に対してであり、全ての医療関連感染を制御するわけではない。更に、手作業による最終清掃を補う目的で使われるものであるので、最終清掃の質が高ければ紫外線照射装置の上乗せ効果は当然減弱する。
本研究は、紫外線照射装置の有効性を示すことができなかった。一方、本研究では以下のような要因が存在した:(1)アウトカムとして臨床培養検体による感染症を設定しており、保菌獲得を含んでいない(2)デバイス関連感染は中心ライン関連血流感染(CLABSI)と尿道カテーテル関連尿路感染(CAUTI)のみであり、環境由来の感染症および保菌獲得として重要なHAI の一つである人工呼吸器関連肺炎(VAP)は含まれていない(3)手作業の清拭による環境表面の清浄化のレベルがかなり高く、清拭清掃の後の蛍光マーカーの残存による質評価の対象事例の55%で消失が達成されていた(4)手指衛生遵守率が51~56%と高かった
紫外線照射装置は、環境に由来する様々な病原体の伝播を制御する有益な装置であると考えられる。しかし、一般に高価であり、また運搬のための人員を要し、患者の当該区域からの一時的退去も必要である。全ての患者の退室後に適用するのではなく、状況に応じて的を絞って使用することが効果的である。