ケンエー海外論文 Pickup

vol.89 病院と介護施設における地域的な除菌による入院と多剤耐性菌の減少
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意義

多剤耐性菌(MDRO)による感染症は、罹患率、死亡率、入院期間、医療費の増加と関連している。MDROとそれに関連する感染症を軽減するには、地域的介入が有利である。

目的

除菌に関する協働の実施が、地域のMDRO有病率、臨床検体からの分離、感染に関連した入院、費用、および死亡の減少と関連するかどうかを評価すること。

デザイン、場所、参加者

この質改善研究は、2017年7月1日から2019年7月31日まで、カリフォルニア州オレンジ郡の35の施設において実施された。

曝露

長期療養型施設の入所者および接触予防策(CP)を講じている入院患者に対するクロルヘキシジン清拭およびヨード剤による鼻腔消毒。

主な結果と評価

参加施設におけるベースラインおよび介入終了時のMDRO点有病率、参加施設および非参加施設における臨床検体(非スクリーニング)からのMDRO分離、参加および非参加のナーシングホーム(NHs)の入居者における感染症関連の入院および関連費用、死亡。

結果

35施設(病院16施設、NH16施設、長期療養型急性期ケア病院 [LTACH] 3施設)が介入を採用した。参加施設のベースライン期間と除菌介入完了期間を比較すると、MDRO有病率の平均(標準偏差)は、NHでは63.9%(12.2%)から49.9%(11.3%)に、LTACHでは80.0%(7.2%)から53.3%(13.3%)に減少した(NHとLTACHを合わせたオッズ比[OR]は0.48(95%信頼区間:0.40~0.57)。また、CPを講じている入院患者では64.1%(8.5%)から55.4%(13.8%)に減少した(OR:0.75、95%CI:0.60~0.93)。NHでのベースラインと除菌介入完了期間との比較では、臨床検体からのMDRO分離の月平均件数(標準偏差)は、参加NHでは2.7(1.9)から1.7(1.1)へ、非参加NHでは1.7(1.4)から1.5(1.1)へ(群と期間を交互した減少率:30.4%、95%信頼区間:16.4%~42.1%)であった。病院で同様の指標の比較をすると、参加施設では25.5(18.6)から25.0(15.9)へ、非参加病院では12.5(10.1)から14.3(10.2)へ変化した(群と期間を交叉した減少率:12.9%、95%信頼区間:3.3%~21.5%)。LTACHは全施設が参加しており、同様の指標の比較をすると14.8(8.6)から8.2(6.1)へ減少した(減少率:22.5%、95%信頼区間:4.4%~37.1%)。NHでの延べ1,000居住日当たりの感染症に関連した入院率は、参加NHではベースライン時の2.31から介入時の1.94に、非参加NHでは1.90から2.03に変化した(群と期間を交叉した減少率:26.7%、95%信頼区間:19.0%~34.5%)。延べ1,000居住日当たりの入院関連費用は、参加NHでは64,651ドルから55,149ドルへ、非参加NHでは55,151ドルから59,327ドルに変化した(群と期間を交叉した減少率:26.8%、95%信頼区間:26.7%~26.9%)。延べ1,000居住日当たりの入院関連死亡は、参加NHでは0.29から0.25に、非参加NHでは0.23から0.24に変化した(群と期間を交叉した減少率:23.7%、95%信頼区間:4.5%~43.0%)。

結論と関連性

長期療養施設における一律の除菌と、CPを講じている入院患者を対象とした除菌による地域の協働は、MDROの保菌・感染・入院・費用および死亡の減少と関連していた。

表:ナーシングホームと長期療養型急性期ケア病院での介入による耐性菌保菌のリスク低減(多変量ロジスティック解析)

訳者コメント

 2023年11月のケンエー海外論文PickUp Vol.83で紹介した、介護施設の入所者に対する除菌の効果に関する研究を、地域に拡大して実施した形の研究を紹介する。35施設が参加し、以前に紹介した研究と同様に、クロルヘキシジングルコン酸塩溶液による清拭(自立者は入浴)と鼻腔に対するポビドンヨードの塗布による介入を実施した。これによって、様々な薬剤耐性菌の保菌患者において、その除菌がある程度達成されると考えられる。介入の対象者は、ナーシングホームと長期療養型急性期医療施設では全員、病院では接触予防策を講じている患者のみとした。
 前回紹介した論文では、感染症や病原体の種類を特定せずにアウトカムを設定していたが、本研究ではアウトカムを耐性菌に的を絞り、保菌も含めている点も異なっている。それだけでなく、多施設共同研究であるため、介入群と非介入群を設定することができるので、介入の効果が比較しやすくなっている。
 その結果、介護施設と病院の双方において、介入の実施により様々な薬剤耐性菌の保菌・感染のリスクが低下した。表に示すとおり、MRSA・VRE・ESBL産生菌に関してはほぼ同等の介入効果(40~50%のリスク低減)が見られた。一方、CREに関してはそれほどの効果が見られなかった。著者らは、CREと同じ腸管に保菌されやすいVREやESBL産生菌で低減効果が得られているので、CREも時間をかければ低減効果が得られる可能性があると考察している。
 さほど大きな手間も費用も追加する必要もない本介入の感染制御に与える効果に関して、新たなエビデンスを加えることになった本論文は、今後の介護施設や病院での感染対策に一石を投じ、新たな潮流をもたらすかもしれない。