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vol.88 COVID-19と中心ライン関連血流感染症(CLABSI)の関係を明らかにし、COVID-19大流行の間に実施した看護に焦点を当てたCLABSI 削減介入の影響を評価する
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目的

SARS-CoV-2感染がCLABSI発生率に及ぼす影響を検討し、CLABSIを発症した患者の特徴を明らかにすること。また、COVID-19の有無にかかわらず、CLABSI減少のための質改善プロジェクトの影響についても検討した。

研究デザイン

後ろ向きコホート解析。

研究場所

ロサンゼルスの都市部にある889床の第3次医療教育病院。

研究参加者

National Healthcare Safety Network(NHSN)が定義するCLABSIを発症した18歳以上の入院患者。

介入

入院中のCOVID-19の診断に基づくCOVID-19 CLABSI患者と非COVID-19 CLABSI患者の2つのコホートに対して、COVID-19流行時期(2020年3月~2021年8月)に、CLABSI発生率と患者特性を解析した。二次解析は、非COVID-19 CLABSI発生率と過去の対照期間(2019年)、ICUでのCOVID-19患者と非COVID-19患者のCLABSI発生率、および質改善活動の前後のCLABSI発生率とした。

結果

COVID-19のCLABSI発生率は非COVID-19のCLABSI発生率より有意に高かった。非COVID-19 CLABSI率と過去の対照との間に差は検出されなかった。COVID-19 CLABSIは主にICUで発生し、ICUのCOVID-19 CLABSI率はICUの非COVID-19 CLABSI率よりも有意に高かった。病院全体の質改善活動により、非COVID-19 CLABSI率は低下したが、COVID-19 CLABSI率は低下しなかった。

結論

COVID-19で入院した患者のCLABSI率は、特にICUにおいて有意に高かった。この増加の理由は、患者固有の問題とプロセスに関連した問題の双方を含む多因子によるものと考えられる。質改善活動は、非COVID-19患者のCLABSI率を低下させるのに有効であったが、COVID-19患者ではあまり有効ではなかった。

表1:2020年3月~2021年8月のCOVID-19流行期におけるCOVID-19 CLABSIと非COVID-19 CLABSIの特徴(論文より抜粋)

2020年3月~2021年8月のCOVID-19流行期におけるCOVID-19 ICU CLABSIと非COVID-19 ICU CLABSIの特徴(論文より抜粋)

 

訳者コメント

 COVID-19が様々な医療関連感染に及ぼした影響については既に本シリーズでも紹介したが、NHSNや病院グループのサーベイランスなど種々のデータを用いた多数の解析が行われており、明らかにCOVID-19流行中にCLABSIやCAUTIなどが増加している。しかし、COVID-19感染者と非感染者に分けてそのリスクを解析した論文は見当たらない。
 本論文は、COVID-19感染者と非感染者におけるCLABSI発生リスクについて検討しており、目新しいと言える。解析の結果、COVID-19感染者が非感染者に比べて相当程度高いCLABSIリスクを有していたことが明らかになった。更に二次解析によって、非COVID-19感染者のCLABSIリスクは、2020年3月より前のCOVID-19非流行期と比べて流行期において特に上昇したわけではなく、感染率が1,000カテーテル日あたり1を下回る水準が流行期においても維持されていた。
 従って、COVID-19期間中の全体的なCLABSI増加は、主にCOVID-19感染患者におけるCLABSI増加によってもたらされたと考えられ、その要因としてCOVID-19患者に多く見られた併存疾患の多さやICU収容者の多さなどが考えられた。
 本論文は、COVID-19感染患者が入院中において他の医療関連感染症の高いリスクにも曝露されていること、そのリスクを制御することは非常に困難であることを浮き彫りにしている。