目的
カナダのケベック州において、以下の2つに関連する重症急性呼吸器コロナウイルスウイルス2(SARS-CoV-2)感染のリスクを評価した:(1)医療従事者(HCW)の人口統計学的および雇用上の特徴、(2)患者に対応するHCWの職場および家庭での曝露と感染予防・制御(IPC)。
方法
検査陰性症例対照研究。
研究対象
州の保健システム。
研究参加者
2020年11月15日から2021年5月29日までの間にPCRで確定診断されたコロナウイルス感染症2019(COVID-19)を発症したHCW(症例)を、同期間に同様の症状を有し検査で陰性と判定されたHCW(対照)と比較した。
研究方法
人口統計学的特性および雇用特性(症例4,919例と対照4,803例)、家庭内・職場曝露とIPC(患者対応するHCWの症例2,046例と対照1,362例)を評価する回帰ロジスティックモデルを用いて、感染の補正オッズ比(aOR)を推定した。
結果
COVID-19のリスクは、管理スタッフと比較して、清掃スタッフ(aOR、3.6)、患者支援助手(aOR、1.9)、看護スタッフ(aOR、1.4)として働くことと関連していた。その他のリスク因子としては、経験年数が浅いこと(aOR、1.5)、急性期病院と比較して民間の高齢者施設(aOR、2.1)や長期ケア施設(aOR、1.5)で働いていること、であった。患者対応するHCWのうち家庭内接触者への曝露が9%を占め、最も高い感染のリスク因子であった(aOR、7.8)。ほとんどの感染は、感染患者(aOR、2.7)や同僚(aOR、2.2)へのより頻回な曝露に起因すると考えられた。COVID-19患者との接触時にN95マスクを着用すること(aOR、0.7)およびワクチン接種(aOR、0.2)がリスク低減に関連する対策であった。
結論
SARS-CoV-2ウイルスが刻々と変化し感染力が増している中で、ワクチン接種や呼吸器保護などHCWの保護と患者の安全を確保するための対策を継続的に評価することが必要である。
訳者コメント
本研究はカナダ・ケベック州のいずれかの医療施設の医療従事者でCOVID-19の流行初期に感染した人を対象としている。その頃はオリジナル株とアルファ株が流行しており、COVID-19の感染対策に関して不明な点もまだ多かった時期である。その時期に、医療従事者に限定して症例(感染者)と対照(検査陰性)の合計約1万人の研究対象を確保できたことは、カナダ・ケベック州の保健セクターのデータ管理に関する先進性をうかがわせる。
COVID-19のワクチンの有効性に関する研究では、イスラエルの保健福祉データを用いた研究が有名であり、公的データを用いて迅速に発行されて世界中で参照されていた。本研究はそれらに対しては迅速性では及ばない。
その一方で本研究では、抄録および表で示したリスク因子以外にも様々なリスク因子が同定されている。医療従事者の背景として男性・40歳以上・外国で生まれた・母国語が英/仏語以外・黒人・週40時間以上の長時間労働などが挙げられる。これらの要因は介入することが概ね困難であり、医療施設では医療従事者の感染による欠勤のリスクなどを考慮して人員確保を行うとともに、介入できる因子(労働時間、COVID-19患者に接する際のマスクの種類およびその適切な着用など)への積極的な介入を行って職員の欠勤を防ぐことも必要と考えられる。今後の医療従事者に対する医療機関側の管理に一石を投じる論文と言えよう。