目的
血液培養のコンタミネーションは、入院期間の延長や抗菌薬治療の長期化につながる。迅速な分子ベースの血液培養検査は、特に抗菌薬適正使用プログラムと組み合わせることにより、培養陽性の検出を迅速化し臨床的アウトカムを改善することができる。我々は、多重ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)FilmArray 血液培養同定(BCID)システムが、血液培養コンタミネーションに関連する臨床的転帰に及ぼす影響を検討した。
方法
単一施設において二次的データ解析を含む後ろ向きコホート研究を実施した。この前後比較研究において、PCR BCID 導入前(n=305)に血液培養コンタミネーションがあった患者と、PCR BCID 実施後(n=464)に血液培養コンタミネーションがあった患者を比較した。主要な曝露はPCR の結果であり、研究の主要なアウトカムは入院期間と抗菌薬治療の日数であった。
結果
血液培養コンタミネーションがあった患者における迅速BCID パネルの導入前(10.8 日;95%信頼区間[CI]、9.8-11.9)と導入後(11.2 日;95% CI、10.2-12.3)の調整後平均在院日数に有意差は認められなかった(P = 0.413)。同様に、PCR BICD 導入前群の患者間の調整後平均抗菌薬投与日数(5.1 日;95% CI、4.5-5.7)は、PCR BICD 導入後群(5.3 日;95%CI、4.8-5.9)と有意差はなかった(P=0.543)。
結論
PCR 法を用いた迅速な血液培養同定システムの導入は、血液培養コンタミネーションがあった患者の入院期間や抗菌薬治療期間などの臨床転帰を改善しなかった。
訳者コメント
PCR 法を用いた迅速血液培養同定システムは、理論的には血液培養結果がコンタミネーションであることを早期に決定し、その時点で抗菌薬の暫定的使用が中止され、使用期間の短縮および患者の早期退院に繋がることが期待される。しかし実際には、臨床医が感染症を見逃すことを恐れ、コンタミネーションと判断されても治療のための抗菌薬を投与し続けることもしばしば見受けられる。例えば、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌が血液培養から2 セット中1 セットのみから分離された場合には一般的にコンタミネーションと扱うが、臨床医は同菌による感染症を完全に否定できない場合は抗菌薬の投与を継続することになりがちである。更に、抗菌薬長期投与によるClostridioides difficile感染症や薬剤耐性菌の選択・出現のリスク上昇に関する知識を臨床医が充分に持っていないことも要因としてあげられる。
本研究では抗菌薬適正使用支援チームによる助言も行われていたが、最終的な抗菌薬投与の継続や中止の判断は臨床医によって行われるため、迅速血液培養同定システムが良好なアウトカムに繋がらなかったと考えられる。
有用な最新技術・検査機器ではあるが、その有効活用にはまだ課題が多いことが改めて認識される。