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vol.82 COVID-19 流行2 年目の医療関連感染発生頻度の持続的上昇
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要約

 2021年の医療関連感染(HAI) の発生頻度に対するCOVID-19の影響を評価するために、全米医療安全ネットワーク(NHSN)のデータを解析した。流行前に比べて、標準化感染比は有意に上昇し、特に2021 年第一四半期(2021-Q1) と第三四半期(2021-Q3) に顕著であった。HAIの発生頻度は、COVID-19 の入院患者が増加している時期に上昇していた。
表 様々な種類の医療関連感染の、2021年四半期ごとの発生頻度と標準化感染比

CLABSI:Central line-associated bloodstream infection
CAUTI:Catheter-associated urinary tract infection
VAE:Ventilator-associated event
SSI:surgical site infection
MRSA:Methicillin-resistant Staphylococcus aureus  bacteremia
CDI:Clostridioides difficile infection
発生頻度:CLABSI・CAUTI・VAE は1,000 デバイス日あたりのイベント数、SSI は100 手術あたりのイベント数、MRSA・CDI は10,000 患者日あたりのイベント数
SIR:標準化感染比、2015 年のデータを基準として算出

訳者コメント

 アメリカではHAI 対策が長年にわたって着実に推進され、ガイドラインの改訂やバンドル化による実務改善と、アウトカムであるHAI の継続的な発生状況監視(サーベイランス)が継続して行われてきた。2010 年代に入り、サーベイランスの参加が半ば義務化され、多くの医療機関が何らかのサーベイランスを実施し、CDC が運営するサーベイランスシステムであるNHSN に参加しデータを提出している。その結果、国全体のHAI 発生状況が詳細に把握されている。
 発生状況を示す最も単純な値である発生率は、様々なリスク因子を調整していない値であり、それらを調整して何らかのベンチマークと比較した発生状況の指標である標準化感染比(SIR)を発生率の代わりに使用するのが、NHSN におけるここ数年の流れである。その比較対象であるベンチマークとして2015 年のデータを用いることが多く、本論文でもそうである。
 代表的なHAI であるCLABSI・CAUTI・SSI、そしてMRSA 菌血症やCDI は2019 年まで着実に減少し、SIR が0.6 ~ 0.7 と2015 年に比べて30 ~ 40% 減少していた。ところが、コロナ禍になって傾向が一変した。CLABSI やMRSA のSIR は2021 年Q1 やQ3 において1 を超え、6 年前に逆戻りしたような様相を呈した。VAEはコロナの疾患としての影響もあるのか、1 を大きく超え2015 年以前の状況に戻っている。一方、CAUTI のSIR は0.8 程度でかろうじて低下状態を保っている。また、SSI は着実に減少し続けている。
 また、アメリカでは2021 年Q2 にはCOVID-19 の流行が下火になっており、Q3になって再び大きく流行していた。SSI とCDI を除く4 つの指標は、この流行と同期して低下・上昇した。COVID-19 入院患者が増加し、医療従事者のCOVID-19 感染による欠勤が増えて多忙となり、手指衛生や清潔操作・各種デバイス関連感染特有の対策などを遵守することが難しくなっていたことも理由の一つとして考えられる。
 一方、SSI は主に周術期管理に関わる医療従事者の感染対策実践を反映する指標であり、CDI の発生には抗菌薬適正使用が大きく影響するが、これらの領域はCOVID-19流行と関係なく淡々と実践活動が行われていたと言える。特にCDI はコロナ禍根になっても着実に減少し続けているが、CDI の伝播防止に際して講じられる接触予防策がCOVID-19 の感染対策と重なっていることも関係があるだろう。
 忙しさで感染対策がおろそかになるのは、アメリカも日本も同じなのか、という感慨を抱かせる論文であった。