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vol.81 末梢静脈カテーテル関連菌血症の発生頻度・合併症・コスト:後ろ向き単施設研究
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背景

 末梢静脈カテーテル(Peripheral Venous Catheter, PVC)の合併症は患者の平均約半数に発生し、PVCの早期抜去、継続中の治療の中断、およびカテーテルの交換が必要となる。

目的

 PVCに起因する血流感染(bloodstream infection, BSI)の現在の発生頻度・合併症・コストを推定すること。

方法

 PVC関連BSIを発症した患者(症例)を、PVC関連BSIを発症していない患者(対照)とマッチさせた。

調査結果

 2018年1月1日から2020年3月31日までに、救急外来を受診した患者113,068人中9,833人(9%)がPVC挿入後に内科病棟に入院した。そのうち581人(6%)が少なくとも1回の血液培養陽性であった。このうち25人(4%)がPVC関連BSIと判定された。重大な合併症は9例に認められた。1人の患者は重症敗血症を呈して11日間の集中治療室への入院を必要とし、そののち胸椎(T4-T7)椎間板炎を発症して長期間の抗菌薬治療を必要とした。別の患者は僧帽弁心内膜炎を発症し、これも長期間の抗菌薬治療を要した。また別の患者は最初のPVC感染から3ヵ月後に仙骨前膿瘍を発症し、ドレナージに19日間の再入院を要した。入院費用の中央値(四分位範囲)は、症例群で11,597ユーロ(8,479~23,759)、対照群で6,789ユーロ(4,019~10,764)であったので、追加費用の中央値は5,587ユーロであった。

結論

 内科病棟に入院した患者がPVC関連BSIを発症するリスクは低いように思われるが、PVC関連BSIの合併症は重篤であり、関連する死亡率は依然として高い。このような合併症の治療に費やされる財源は、高品質の材料や技術の使用、医療従事者の訓練の改善などの予防に対して、もっと有効に使うことができるだろう。

訳者コメント

 PVCは、中心静脈カテーテル(Central venous catheter, CVC)と比較してその合併症が軽んじられる傾向にある。BSIの頻度が低いこと、静脈炎については徴候が現れた際に速やかに抜去すればそれ以上悪化しないこと、その際の再挿入が容易なこと、などがその理由として考えられる。
 BSIの頻度については、本研究では本数に対して約0.2%、つまり500本に1本の割合であった。しかし、PVCの平均留置日数を3日と仮定すれば、1,000カテーテル日あたりの発生頻度は約0.8となり、CVCのそれ(通常1程度)よりやや低い程度にすぎず、決してBSIの頻度が低いとは言えない。更に、急性期入院患者の多くが用いているデバイスであり、CVCに比べて圧倒的に多い数が使用されているので、頻度が低くても重視すべき合併症である。更に、本研究でBSIを発生した25名のうち入院中死亡が6名に発生していた。全てのケースがPVC関連BSIを直接死因とするわけではないが、重大な合併症であることは疑いの余地がない。最後に、本研究の主要評価項目であるPVC1件あたりの追加医療費が5,600ユーロ、約88万円であることは、PVC関連BSIが重大な合併症であり軽視すべきでないことを示している。ただし、本研究の限界として、フランスの地方都市の単一施設において行われた研究であること、救急外来を受診した患者というやや偏った患者集団に対して研究が行われていることに留意する必要がある。
 PVC関連合併症の低減に関しては、静脈炎対策としてカテの固定を確実に行う(手の動きによって一緒に動いてしまうことがないようにする)ことや高張液・アミノ酸製剤などの投与を極力避けるなどの方法がある程度確立してきている。しかしBSI防止対策については不明な点も多い。CVCと同様に、医療関連感染サーベイランスの対象とし、静脈炎もイベントに追加してデータ収集すべきなのかもしれない。