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vol.76 過去のSARS-CoV-2感染による再感染の防御~システマティックレビューとメタ解析
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背景

SARS-CoV-2の過去の感染による、その後の再感染・症候性新型コロナウイルス感染症(COVID-19)・その重症化に対する防御の程度と特徴を理解することは、将来の潜在的な疾病負担の予測、感染リスクの高い場所への旅行やアクセスを制限する政策の立案、およびワクチン接種の時期に関する選択の参考として不可欠である。我々は、過去の感染による防御を推定する研究を、変異型別に、またデータが許す限り感染からの時間別に、系統的に統合することを目指した。

方法

本システマティックレビューおよびメタ分析では、開始から2022年9月31日までに発表された後ろ向きおよび前向きコホート研究および検査陰性症例対照研究において、過去にSARS-CoV-2に感染した人のCOVID-19リスクの減少を感染歴のない人と比較して推定した科学論文を、特定しレビューし抽出した。過去の感染の有効性を、アウトカム(感染、症候性疾患、重症)、変異型、感染からの時間別にメタ分析した。ベイズメタ回帰を行い、プールされた防御の推定値を算出した。リスクオブバイアス評価は、アメリカ国立衛生研究所の品質評価ツールを用いて評価した。システマティックレビューはPRISMAに準拠し、PROSPEROに登録された(番号CRD42022303850)。

所見

19カ国から合計65件の研究が同定された。メタ解析の結果、過去の感染および症候性疾患による防御は、祖先型・アルファ型・ベータ型・デルタ型では高かったが、オミクロンBA.1変異株では大幅に低いことが示された。オミクロンBA.1変異株による再感染に対するプールされた有効性は45.3%(95%不確実性区間[UI]17.3%~76.1%)、オミクロンBA.1症候性疾患に対しては44.0%(95%UI:26.5~65.0)であった。プールされた平均有効性は、オミクロンBA.1を含むすべての変異型について、重症の疾患(入院および死亡)に対して78%以上であった。祖先型・アルファ型・デルタ型による再感染に対する防御は、時間の経過とともに低下し、40週時点で78.6%(49.8~93.6)のままであった。オミクロンBA.1変異株による再感染に対する防御はより急速に低下し、40週時点では36.1%(24.4~51.3)と推定された。一方、重症化に対する防御はすべての変異型で高いままであり、40週時点で祖先型・アルファ型・ベータ型・デルタ型に対しては90.2%(69.7~97.5)、オミクロンBA.1に対しては88.9%(84.7~90.9)であった。

解釈

過去の感染から、オミクロン以前の変異型による再感染に対する防御は非常に高く、40週後でも高いままであった。オミクロンBA.1変異株に対する防御はかなり低く、以前の変異型に対する防御よりも時間の経過とともに急速に低下した。重症化に対する防御は、すべての変異型において高かった。COVID-19による将来の疾病負担を評価し、個人がいつワクチン接種を受けるべきかについての指針を提供し、労働者へのワクチン接種を義務付けたり、免疫状態に基づいて旅行や大勢が集まる室内環境などの感染のリスクが高い環境へのアクセスを制限する政策を策定する際には、過去の感染によってもたらされる免疫をワクチン接種による防御と比較検討する必要がある。

訳者コメント

前回に引き続き、既往感染が再感染に対してどの程度防御的に働くかを検討した論文を取り上げた。本論文はシステマティックレビューであり、より多くの研究結果を反映していると言える。また、ワクチン接種および感染によるハイブリッド免疫を有する人を対象とした研究を除外していることから、既往感染の効果をより明確に評価することができている。

結果であるが、既往感染がオミクロン株による再感染を防ぐ効果があまりないことが明確になっている。オミクロン株の流行がそれ以前の流行株に比べて非常に大きくなった理由の一端がうかがえる。その一方で、重症化阻止効果は変異株の種類によらず高く、一度感染した人は再感染しても重症化しにくいと言え、全員が感染すること(ワクチンによる免疫も含めて)がこの疾患を重症化リスクの低い、すなわち「普通のカゼ」に近い状況に収束させるために必要なのではないかと考える一つの根拠となるだろう。

もちろん、初感染時の重症化リスクを軽視することはできない。ワクチンによる免疫は既往感染と同等か否かは現在でも議論のあるところだが、本研究から言えることは、多くの人が既に感染した国では社会全体として重症化リスクも下がり、医療体制や社会の混乱がより発生しにくくなっているということであろう。