本研究の目的は、過去のSARS-CoV-2感染とワクチン接種が、新規感染と入院のリスクに対して及ぼす防御効果を明らかにすることである。イタリア・ヴェルチェリ市の地方保健所で診療された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者コホート内で2つの症例対照研究を行い、1つは感染リスクを、もう1つは入院リスクを推定した。新規感染者および入院者は、年齢・性別・指標日が同じである最大4人の非感染者(対照)とマッチングされた。研究対象者は、コホート参加日から疾病転帰、追跡調査終了または地域外への移住まで追跡調査された。
ワクチン接種は、感染のリスクを36%(OR 0.64; 95%CI 0.62-0.66)、入院のリスクを90%(OR 0.10; 95%CI 0.07-0.14)低下させた。先行するSARS-CoV-2感染は、感染と入院のリスクをそれぞれ 65%(OR 0.35; 95%CI 0.30-0.40)、90%(OR 0.10;95%CI 0.07-0.14) 低下させた。ワクチン接種しかつSARS-CoV-2感染して回復した者は、その後の感染と入院のリスクをそれぞれ63%(OR 0.37; 95%CI 0.34-0.41)と98%(OR 0.02; 95%CI 0-0.13)減少させた。
ワクチン接種は、COVID-19の重症化を防ぐために不可欠な公衆衛生手段であることに変わりはない。本研究は、ワクチン接種または過去の感染がSARS-CoV-2感染による入院に対して強い保護効果を持つことを示している。感染を防ぐ効果は、他の無作為化比較試験で示された有効率よりも低いものの、存在はするようだ。
訳者コメント
2023年に入り、COVID-19に関する論文が非常に少なくなっている。多くの人が既に感染し、またワクチン接種も行っている状況において、ワクチンの効果に関して科学的により厳密性を担保できる無作為化比較試験などを行う対象がいなくなりつつある。
本論文は、COVID-19の流行初期に相当大きな地域的流行となったイタリアの公衆衛生当局のデータを用いて、リアルワールドデータによる症例対照研究を行い、ワクチンや既往感染の感染防止効果と入院防止効果を検証した。既に同様の研究が行われており、結果も特に目新しいものではないが、10万人を超えるコホートの研究はそう多くないので、2023年になっても発行される価値が大いにあると言える。
研究集団は男性が47%、年齢は平均41歳、ワクチン接種群におけるワクチンの種類は約90%がメッセンジャーRNAワクチンであった。基礎疾患は約30%が有していた。
解析の結果、ワクチン接種単独(既往感染なし)でも、その後の感染を36%、その後の感染による入院を90%回避できるということが示された。感染防止効果は、既往感染単独(ワクチン未接種)の方が高い(65%)ことから、ワクチンの感染防止効果はそれほど高くないことが改めて示された。過去に取り上げた多くの論文で、接種から時間が経過すると感染防止効果が減弱することが示されている。その一方、入院のリスク低減は、既往感染と同程度の効果があり、COVID-19のワクチンが入院や重症化阻止のために接種するのが主な目的となっていくことが想定される。
実際、日本でも今後の接種は高齢者など重症化リスクが高い人に絞って実施する方向性が提言されている。接種体制、費用、発熱などの副反応に伴う労働機会の喪失による社会的損失などを考慮し、持続可能な形で今後のCOVID-19ワクチン接種計画が立案されるべきである。