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vol.73 学校でのユニバーサルマスキング中止:生徒と職員でのCOVID-19発生頻度
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背景

 2022 年2 月、マサチューセッツ州は公立学校における全州共通のユニバーサルマスキング指針を撤回し、マサチューセッツ州の多くの学区がその後の数週間のうちにマスク着用要件を解除した。大ボストンエリアでは、ボストンと近隣のチェルシーの 2 学区だけが2022 年6 月までマスク着用要件を維持した。マスク着用義務の段階的な解除は、ユニバーサルマスキング指針が学校でのCOVID-19 発生頻度に及ぼす影響を検証する機会をもたらした。

研究方法

 段階的指針導入の差分分析を用いて、ボストン広域圏で2021-2022 学事年(訳者註:2021 年9 月から2022 年6 月15 日までの40 週間)の間にマスク着用義務を解除した学区における生徒と職員の COVID-19 の発生頻度と、マスク着用義務を維持した学区における発生頻度を比較した。また、学区の特徴も比較した。

結果

 州全体のマスク着用指針が解除される前のCOVID-19 の発生頻度の傾向は、学区間で同様であった。州全体のマスク着用指針が解除された後の15 週間で、マスキング要件が解除されたことにより、生徒と職員1,000 人あたり44.9 人(95%信頼区間、32.6~ 57.1)の感染者が増加し、その総数は推定11,901 人で、その間の全地区の患者の29.4%に相当した。マスク着用義務の延長を選択した地区は、その早期解除を選択した地区に比べ、校舎が古く状態が悪い傾向があり、1 教室当たりの生徒数が多い傾向があった。また、これらの地区では、低所得の生徒、障害のある生徒、英語学習者の割合が高く、黒人やラテン系の生徒や職員の割合も高かった。この結果は、ユニバーサルマスキングが、学校でのCOVID-19 の発症と対面授業日の損失を減らすための重要な戦略であることを支持する。このように、ユニバーサルマスキングは、教育上の不平等を深める可能性を含む、学校での構造的人種差別の影響を緩和するために特に有用であると考える。

表 マスク着用指針変更による学区間でのCOVID-19の累積発生頻度の相違(カッコ内の 数値は95% 信頼区間)

結論

 ボストン広域圏の学区では、州全体のマスク着用指針が解除された後の15 週間で、生徒・職員1,000 人あたり44.9 人のCOVID-19 感染者が追加で発生したことに関連していた。

訳者コメント

 人が集まる場所でのユニバーサルマスキングがCOVID-19 感染伝播を抑制するのは、理論的にはあまりにも当たり前であり、データを用いて証明する必要すらないように感じる。その一方で、このような学区の指針の差によるCOVID-19 症例発生頻度の相違を見ると、データを用いて証明することがより強い説得力を持つと感じる。研究者達にとってはたまたま巡ってきた研究の機会と言えるが、それを確実に捉え、ユニバーサルマスキングの感染伝播抑制効果を明確に示した本論文は貴重な存在であると言える。