ケンエー海外論文 Pickup

vol.67 イスラエルの60歳以上の人に対するBNT162b2ワクチン4回接種と3回接種の短期的効果の比較:後ろ向き・ 検査陰性・症例対照研究
PDFファイルで見る

目的

 Pfizer-BioNTechのmRNAワクチン(BNT162b2)の4回目の接種について、3回の接種と比較して、10週間にわたる相対的な有効性を検討すること。

デザイン

 後ろ向き・検査陰性・症例対照研究、マッチド解析およびアンマッチド多重試験解析。

対象

 250 万人を対象としたイスラエルの国民健康基金であるMaccabi Healthcare Services の全国集中データベース;イスラエルにおけるオミクロン株が優勢であった2022年1月10日(対象者に4回目の接種を初めて行った7日後)から2022年3月13日まで。

参加者

 4回目のワクチン投与を受ける資格を有し、研究期間中に少なくとも1回のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査を受けた60歳以上のMaccabi Healthcare Services会員97,499人。

主要アウトカム評価項目

 BNT162b2ワクチン接種後7日以上経過した時点でのPCR検査陽性と定義されるSARS-CoV-2感染、およびCOVID-19に関連した入院または死亡と定義される重症COVID-19疾患に至ったSARS-CoV-2感染。

結果

 27,876人が4回目のBNT162b2 ワクチンの接種を受け、69,623人が3回のみの接種を受けた。追跡期間中に死亡した106人のうち、77人は3回のみを接種し、23人は4回目の接種後3週間以内であった。4回目の接種は3回のみの接種に比べ、接種後最初の3週間に、SARS-CoV-2感染と重症化の両方に対してさらなる予防効果が観察された。しかし、感染に対するワクチンの効果は時間とともに急速に低下し、3週間目に65.1%(95% 信頼区間:63.0% ~ 67.1%)でピークに達し、10週間の追跡期間の終わりには22.0%(同:4.9% ~ 36.1%)に低下している(表)。SARS-CoV-2感染に対する相対的有効性とは異なり、重症COVID-19に対する4回目の接種の相対的有効性は、追跡期間を通じて高いレベル(72%以上)で維持された。しかし、重症化は比較的まれな事象であり、4回投与または3回のみの投与を受けた研究参加者の1%未満にしか発生しなかった。

結論

 BNT162b2ワクチンの4回目の接種は、3回のみの接種と比較して、SARS-CoV-2感染と重症COVID-19の両方に対するさらなる予防効果をもたらしたようであった。しかし、4回目の接種が感染に対して及ぼす相対的な有効性は、3回目の接種のそれよりも早く減衰すると思われる。

訳者コメント

 前々回に続き、4回目のワクチン接種に関する有効性を検討した論文を紹介する。まず、研究対象者が60歳以上の比較的高齢な者に限定されていることに注意が必要である。手法としては、検査陰性者とマッチさせた陽性者を用いており、標準的なものである。また、4回目の接種からの経過期間を細かく分類して、その効果が増強・減衰していく様子を詳細に明らかにしている。
 接種2-3週間後に感染防止効果が最大になる点は、その他の研究結果と概ね一致している。問題はその後であり、接種後7 週目あたりから急速に有効性が低下していき、10週目は22%とかなりの低い値になってしまっている。つまり、4回目の接種を行って2ヶ月経つと効果がほとんどなくなるということである。
 本研究の問題は、3回目と4回目のワクチン接種の間隔である。イスラエルでは3回目の接種を2021年8月に開始しており、大多数の研究参加者は8月から9月に接種したと思われる。そして、4回目の接種は2022年1月初めから開始されており、研究参加者は1月に接種したと思われる。そうなると、間隔が4ヶ月から5ヶ月と比較的短く、この接種間隔の短さが有効性の急速な減衰に繋がっている可能性がある。
 日本では、3回目の接種から5ヶ月以上経過した60歳以上の者などに対して、2022年5月中旬より4回目の接種が開始された。4回目のワクチン接種がどのような効果をもたらすか、注目していきたい。