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vol.65 イスラエルにおけるBNT162b2の4回目の接種によるオミクロン株に対する防御
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背景

2022年1月2日、イスラエルは60歳以上の人にBNT162b2ワクチンの4回目の接種を開始した。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染および重症コロナウイルス感染症2019(Covid-19)の発生率に対する4回目の接種の効果については、データが必要である。

方法

イスラエル保健省のデータベースを用いて、SARS-CoV-2のB.1.1.529(オミクロン)変異型が優勢であった期間(2022年1月10日~3月2日)に、60歳以上で4回目の接種対象者であった125万2331人のデータを抽出した。4回目接種後8日目からの感染率および重症Covid-19の発生率を、3回のみの接種者(3回接種群)および3~7日前に4回目の接種を受けた者(内部対照群)と比較して、時間の関数として推定した。罹患率の推定には、年齢・性・人口集団・暦日を調整した擬似ポアソン回帰を用いた。

結果

10万人日あたりの重症Covid-19の発生数(未調整率)は、4回接種群で1.5、3回接種群で3.9、内部対照群で4.2であった。疑似ポアソン解析では、4回目接種後4 週目の重症 Covid-19 発生調整率は、3回接種群よりも3.5倍低く(95%信頼区間[CI]、2.7~4.6)、内部対照群よりも2.3倍低かった。4回目の接種後6週間は、重症化に対する予防効果は減弱しなかった。10万人日あたりの感染確定症例数(未調整率)は、4回接種群では177、3回接種群では361、内部対照群では388であった。疑似ポアソン解析では、4回目接種後4週目の感染確定率は、3回接種群より2.0倍(95%CI、1.9~2.1)低く、内部対照群より1.8倍(95%CI、1.7~1.9)低いことが確認された。しかし、この予防効果はその後の週に減弱していた。

結論

SARS-CoV-2感染確定および重症Covid-19 は、BNT162b2ワクチン4 回目接種後の方が3回接種後より低率に発生した。確定感染に対する予防効果は短期間であったが、重症化に対する予防効果は研究期間中に減弱することはなかった。

表 重症Covid-19 に対する疑似ポアソン回帰分析

訳者コメント

オミクロン株の流行に対する3回目のワクチン接種(いわゆるブースター)の有効性に関する論文が多く発行され、概ねその効果が明確になった。ブースターから4ヶ月程度が経過すると、予防効果がかなり減弱することが判明し、4回目のワクチン接種の必要性が検討され、イスラエルやアメリカなどでは先行して4回目の接種が開始されており、イスラエルからはその効果に関するデータが出始めている。
本論文で紹介した効果では、4回目接種後に十分な免疫が惹起されると考えられる4週後の時点で、3回接種のみの群と比較して、感染リスクを2.0倍下げ、重症化リスクを3.5 倍下げたとしている。リスクを下げるという表現をワクチン有効率に置き換えると、同じ群との比較でそれぞれ50%、70% 程度となるだろう。これは、2回接種に比べたブースター(3回目の接種)の効果とほぼ同等である。またその後の減衰に関しても、感染を防ぐ効果が比較的早く減弱するが重症化を防ぐ効果は持続するというものであり、やはりブースターの効果と同等であった。
日本では今、ブースター接種が実施されているが、特に若者では接種率が向上しない。これらの人達への接種勧奨も大切ではあるが、ブースターからそろそろ4ヶ月が経過する医療従事者や高齢者、基礎疾患を有する人に的を絞った4回目のワクチン接種を行うことによって、医療や介護の現場での混乱を押さえつつ、経済を廻すことができるのではないかと考えられる。