はじめに
COVID-19ワクチン接種者の抗体価が低下し感染が報告されていることから、感染予防のためのワクチンブースター(3回目の接種)が推奨されるようになった。シンガポールでは人口の80%以上がCOVID-19ワクチンを2回接種しているにもかかわらず、社会的距離と検疫措置が緩和された2021年9月に感染者が急増した。これを受けて、6カ月以上前に2回の接種を終えた60歳以上の成人にブースター接種を受けるよう呼びかけ、30μgのBNT162b2(ファイザー・ビオンテック)または50μgのmRNA-1273(モデルナ)が選択できるようにした。本研究では、ブースター接種およびその種類別のSARS-CoV-2感染と疾患の重症度との関連を推定した。
方法
2021年9月15日から10月31日の間に、ブースター接種対象者のSARS-CoV-2感染率と重症度を、シンガポール保健省に報告された公式データに基づいて分析した。症例は、有症者、無症状の高リスク労働者および濃厚接触者の調査によって特定された。抗体価の上昇に必要な時間を考慮し、ブースター接種後12日目にブースター群に、それ以外は非ブースター群に分類された。同一人が非ブースター群とブースター群の両方に観測値を提供することができるため、リスク日数(Person-days at risk)を報告した。ポアソン回帰を用いて、2回接種で接種したワクチンの種類(BNT162b2またはmRNA-1273)別に、ブースター群と非ブースター群間の感染と重症化の発生率比(IRR)を推定した。性別、人種、社会経済状態の指標となる住居形態、年齢層、免疫低下の可能性を考慮するための2回目のワクチン接種日、調査期間中の感染力の変動を調整するための暦日、などにより調整を行った。
結果
調査期間中に703,209人の対象者のうち、576,132人がブースター接種を受けた。研究対象は、非ブースター群22,643,521人日、ブースター群9,339,981人日であった。人日数別では、60~69歳が59%、70~79歳が29%、80歳以上が11%であり、女性が53%を占めていた。
2回接種でBNT162b2を投与された人のうち感染と重症化の発生は、100万人日あたり同種ブースター群でそれぞれ227.9件と1.4件、異種ブースター群で147.9件と2.3件、非ブースター群で600.4件と20.5件であった。非ブースター群を基準としたIRRは、同種ブースター群で0.272と0.047、異種ブースター群で0.177と0.078であった(表)。
2回接種でmRNA-1273を投与された人のうち感染の発生は、100万人日あたり同種ブースターで133.9件、異種ブースターで100.6件であった。非ブースター群を基準としたIRRはそれぞれ0.198、0.140であった。
考察と結論
SARS-CoV-2の罹患率は、異種ブースターの方が同種ブースターよりも低かった。重症化に関しては、BNT162b2を2回接種した後の同種ブースター群・異種ブースターともに、非ブースター群よりも少なかった。本研究の結果は、ワクチンブースターの推奨を支持し、更に異種ブースティングが同種ブースティングよりもCOVID-19に対してより大きな防御を提供する可能性を示唆する。なお、本研究の限界は、ブースター選択に影響を及ぼす可能性のある観察不能な個人特性による交絡の可能性、追跡期間が短いこと、mRNA-1273投与後の感染者数が少ないこと、若年層のデータがないこと、などであった。
訳者コメント
日本では現在、医療従事者に対する3回目のワクチン接種がほぼ終了し、高齢者への接種が進んでいる。より低年齢層への接種も今後促進されていくであろう。それにあたり、ワクチン供給の関係から2回接種をファイザー/ビオンテック製、3回目の接種をモデルナ製という人が多くなることが想定される。本論文は、既に3回目の接種を概ね完了したシンガポールで行われた研究であり、「異種ブースター」の有効性を同種ブースターと比較している。有効性は異種の方が同種よりも高いと考えられ、今後の日本での3回目の接種推進を後押しするデータであると言える。